乙女5

ああ、どうしよう。
この力強い腕から逃げられる可能性は、今の俺には万に一つも無いではないか。


俺は恐怖に耐えるように固く目を閉じた。
自分の置かれている状況も、何が起こるのかも把握出来ないし、考えたくも無くて。取り合えず思考を逃がすようにサービスへの悪態の言葉ばかりを頭に浮かべていた。
目を閉じていても相手の動きが解ってしまって、思わず身を固くした。
男の姿だったなら、力差はあれどもどうにか抵抗して逃げ出す事も出来るのに。
今の俺は非力すぎてどうする事も出来ない。

怖い。

ただその一言が頭の中を支配している。
ただただ固く目を閉じて唇をぎゅっと噛み締めると、上から光が遮断されるのが解った。

わ、もうどうしよう。サービス・・・!

愛しい恋人の名前を心の中で祈るように呼んだ。
すると、額に温かい物が触れ、そしてすぐに離れて行った。
それに気付いて恐る恐る目を開けば、そこには困ったような笑顔を作っているマジック様の顔が至近距離にあった。

「参ったね、そんなに怖がられるとは思っていなかったよ」

大きな手が伸びて来て頬を優しく撫でられた。

「そんなに震えないで、これ以上何もしないよ」

言われて初めて、自分が震えていた事に気付かされた。
身体にまで恐怖心が出ていた事を知られて恥ずかしくなる。

「え、あ・・・すいません」
「謝るのはこっちの方だよ。すまなかったね怯えさせてしまって」

マジック様の声は何処までも優しい。
謝られて、何だか凄く申し訳ない気持ちになってしまった。

「でもジャン、もうちょっと危機感を持った方がいいね。君の今の姿は、ここではとても危なっかしすぎるからね」
「すいません・・・」

今度は叱られてしまった。
何だか理不尽な気はしたが謝ってしまった。
すると、「素直で宜しい」と頭を撫でられる。子供扱いされるのはいつもの事だから、慣れてしまった。

「サービス、早く帰って来ないかな・・・」

サービスは先程俺を置いて出たばかりだ。
すぐに戻って来る事なんて有り得ない、有り得ないと解っていつつも望んでしまう。
我ながら馬鹿げた事を考えているとは思うのだけど。

やっぱ心細いし。

今日何度目か知れない溜息を零す。
布団を引っ張れば、今の自分の情けない身体を隠すように身体をそれですっぽりを覆った。

「サービスが帰るのにはまだ時間が掛かるよ。私と二人だと不安だろうから、さっき君とサービスの友達を呼んでおいたよ」
「友達?」

サービスと俺の友達?
最初は疑問符が浮かんだが、すぐにそれも消え去った。
俺とサービスの友達。一人しか頭の中に名前が出てこねーし。

コンコン。広い部屋にノックの音が響いた。

「ああ、来たね。入りたまえ」
「失礼します。マジック様、用と言うのは・・・って、ジャン。あんたこんなとこで何してんですか」

やっぱりそうか。

俺の今の悩みの一番の元凶がそこに居た。
俺は布団に包まったまま、がっくりと頭を項垂れ、また溜息を零してしまっていた。








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高松再登場。
話がどんどん変な方向へ・・・。。