その日はとても快晴だった。
蒼い空を泳ぐように小鳥が窓を横切って行く。
部屋にはコーヒーの香が漂っていた。

ここはガンマ団総帥である私の私室である。
高級ながらもシンプルに揃えた調度の良いアンティークの机に、上等のソファ、私はそれに腰をかけて足を組んだ状態だ。
そして目の前には、私とは正反対の毛色を持った東洋の青年が座っている。前に温室で逢った彼、ジャンだ。
温室で出会って以来一ヶ月という月日が過ぎ去っていた。
私はガンマ団総帥、彼は士官学校生、どちらも忙しい身分である。特にこの軍のトップに立っている私は、好きに散歩を出来る時間も限られてしまう。今日は貴重なオフの日であった。
先程から私の部屋をきょときょとと物珍しそうに見回しているジャンは、先程廊下で逢ったばかりで、コーヒーを飲む約束を以前していたものの、日付や時間までは決めてはいない、単なる軽い口約束でしかなかった。しかしこの機を逃してしまっては次は何時になるのかわからない。深々と自分に頭を下げた後に横を過ぎ去ろうとしたジャンの腕を私は無意識に掴んでしまっていた。
ジャンは当たり前だが、驚き、私を見上げて立ち尽くしてしまった。私は自分の行動にハッとしたが、思わず掴んでしまった彼の手はそのままに、なんとかこの場に引きとめようと口を開いた。

「やあ、久しぶりだね。そんなに慌てて行かなくても良いじゃないか」
「や・・・あの・・・お話したいのは山々なんですが、授業があるんです」

そうか、なら仕方ない。そう思ったが、折角逢えたのにと残念に思う自分も居る。

「そうか、授業か・・・しかし私は君とお茶をしたいんだよ。またコーヒーをご馳走すると言っただろう?」
「はぁ・・・しかし・・・」
「私が学生の頃はたまにはサボっていたものだが、君は真面目だね。良い事だけど、たまにはハメを外さないと」
「ですが・・・」

彼は困っていた、早くしなければ授業に遅れてしまう、しかし総帥である私を無下にする事も出来ず。どうすればいいか解らずに右往左往するばかりである。
私はそんな彼を見て笑い、これでは拉致があかないと判断したので職権乱用をさせてもらう事にしたのである。

「では、ジャン、これは命令だ。オフの私に付き合って一緒にコーヒーを飲みなさい」
「ええ!?そんな、命令されたらもう従うしか無いじゃないですか」

ジャンは、これは観念するしかないと思ったのか。後ろ頭を軽く掻けば私を見上げて少し困ったように笑顔を零すのだった。

「決まりだね。それじゃ、私のプライベートルームへ行こうか」

私はジャンの手を取れば紳士さながらに手の甲へと軽く口付けを落とし、そのままほんのり頬を紅く染めた彼の手をとって私室へと向かったのである。

そして今に至るわけなのだが、私は相変わらずのブラックコーヒーに、彼には以前温室で飲んでいたものと同じカフェオーレを出した。
そのカフェオーレの入ったアンティーク調のカップを物珍しげに眺めてから、また大事そうに両手で包むようにして口に運ぶのだった。両手が出るのは彼の癖なのだろうか?
その仕種を面白く思いつつ、カフェオーレを飲んだ彼に「どうだい?」と問いかけた。

「あ、はい。とっても美味しいです」

ほぅ、と彼が息を漏らす動作に私の視線は自然と彼の唇へと向かっていた。
カフェオーレを飲み、口端に付いてしまったのか、ペロリと小さく舌を出してそれを舐め取る仕種に思わず目を見張る。

あの唇に触れてみたいと思ってしまう。
無意識にソファから立ち上がると向かいに座っているジャンのソファへと近付いた。まだ両手でカップを持ってカフェオーレを飲んでいた彼は、どうしたのだろう?という表情で隣に来た私を見上げている。唇の端に付いているカフェオーレを見つけると、ジャンの顎へと手をかけて上向かせた。
更に?が彼の頭上を飛び交っている様が今にも見えそうな位、不思議そうな顔で見つめ返された。
私はそのまま顔を下ろしていき、ジャンの唇の端に残っているものをペロリと舐め取った。途端、ジャンの身体がビクリと硬直したのが解る。少し顔を離して彼を見遣れば、見る間に顔を真っ赤にしてしまっている。そんな姿が可笑しくて、つい笑いを零してしまえば彼に叱られてしまった。

「な・・何笑ってるんですか!?こんな事されたら当たり前の反応でしょう!」

彼の顔色だけでは、怒っているのか恥ずかしいのかは解らない、それが更に可笑しくて、可愛くて。
「笑わないで下さい!」とまた怒鳴られてしまった。

「すまない・・・でも、可愛くってついね」
「可愛くなんかないし、言われても嬉しくないです」

ジャンはソファの端にずりずりと後退ると手の甲で唇を押さえて必死に顔の熱を下げようとしている。そういう仕種も表情も見られるのが恥ずかしいのか、ついには両膝を抱えてその間に顔を埋めて隠してしまった。そんな可愛い動きをされるとつい意地悪をしてしまいたくなる。

「ジャン、顔を上げて」
「イヤです」

俯いたまま、首を緩く左右に振られる。
今は一体どんな表情をしているんだろうか。きっと恥ずかしさにまだ顔は紅く染まったままには違いないだろう。
もう一度、「ジャン」と優しく名前を呼んでから漆黒の髪へと指を差し入れて髪を梳けば、それは絡まる事も無くサラサラと私の指の間から零れ落ちて行った。
暫くそうして髪を梳きながら根気強く彼が顔を上げてくれるのを待った。
すると、いい加減その姿勢で居るのに飽きたのか、ジャンの頭がゆっくりと擡げられた。頬はまだ紅く染まっていて、困ったような顔でこちらと視線を合わせれば気まずそうに目を逸らされる。当たり前の反応であるが。ジャンの頬に軽く手を置いて顔を近づけ、今度は唇に触れるだけのキスをした。

彼の唇は微かに湿り気を帯び、そしてとても柔らかかった。
私の行動に困惑し、頬を染めている彼をとても愛しいと思った。

私は、告白も無いまま何度も唇を重ね。そしてまだ幼い彼の身体を強く抱き締めたのだった。
温もりを離さないように。














何だコレハ!?
マジジャンです。「ベンチとコーヒー」の続きです。総帥何がしたいんですか・・・つーか私は何が書きたいんですか・・・。
ちょっと余裕の無い総帥になってしまいました。唇ホスィー!ハァハァ。みたいな感じですね。落ち着いてよ。(私もね)
告白前に唇を奪ってしまいました。アワワワ(((゜Д゜;))))ガクガク ごめんなさい。