流れ星

君が好きだと言ってくれたら、私はいつだって君の為にこの身を犠牲にする事だって出来るのに。



キラリと音もたてずに夜空に一筋の光が尾を引いた。

「あ、流れ星!」

君は夜空を指差して声も高らかに叫んだ。
声に気付いて空を見上げたけれど、光の筋の欠片すら視界に捉える事は叶わなかった。

「なぁ、サービス今の見たか?」
「いや、惜しくも見逃してしまったよ」

私が少し残念そうに言えば君も残念そうな顔になる。
見逃してしまったのは自分の方なのに、どうして君の方がそんなに哀しそうな表情なんだろう?
そんなジャンを見て私は苦笑を浮かべる。

「ジャンがそんなに残念そうにしなくてもいいじゃないか。君は流れ星見れたんだろう?」
「見れたけど・・・一緒に見れないと意味ないよ」

そうやって拗ねたように言う君は子供のよう。
でも、私の為にそう言ってくれるのはとても嬉しかった。私よりも随分と若い彼はとても無邪気だ。
18歳という年齢のままそれ以上成長する事も老いる事も無い彼は、精神的にも18歳のままなんじゃないだろうか?という錯覚にさえ囚われる。
実際は言葉や喋り方とは裏腹に、意外にしっかりしているのだけれど。
こうしてはしゃいでいるジャンは、この時ばかりは歳相応なのであった。
ガンマ団の研究室の屋上から見上げている夜空には、星が一面に散りばめられている。手を伸ばせば触れてしまいそうな位に近く感じるのだけど、実際に手を伸ばしてみても掴む事なんて出来るわけはない。当たり前の事なのだけれど、もし星を掴む事が出来れば、私は迷わず愛しい彼にその輝きを手渡すのにと少し残念に思う。

「パプワ島じゃさ、こんなもんじゃなかったぜ?」

気が付けば袖を引っ張られていた。星空を見上げて呟く彼の視線を辿るように自分も顔を上げて夜空を見上げた。
確かにあの島の星空は凄かった。今まで40年以上も生きてきて、あんなに眩しい星空に出会った事などなかった。
ただ純粋に、綺麗だった。

「あの島じゃ流れ星なんて当たり前のように見れたんだ」

その時の光景を思い出しているのか、ジャンはにかりと笑みを浮かべた。

「あの島に帰りたい?」
「そりゃ、産まれ故郷だし。大事な場所だし・・・でも、俺はサービスの傍がいいよ・・・」

くるりと私に背を向けてジャンは呟いた。
顔は少し俯いて、言葉の最後は消え入りそうな位に小さな声になっていた。でも、私の耳にはちゃんと届いたその言葉。
嬉しかった。

「ジャン、寒くないかい?」
「んー・・・まぁ、そこそこには」

問いかけたけど、ジャンはまだ私に背を向けたままだった。
さっきの言葉が恥ずかしかったのだろうか?
コートの前を寛げると、そのまま背を向けているジャンを包み込むようにコートで包む。
自分よりも少し小さい彼はそのまま大人しく抱き締められてくれた。
冷え切っているかと思っていたが、彼の身体は暖かかった。

「今度君に何かあったら私は今度こそ自分で自分の命を経ってしまうかもね・・・。だから過去の過ちを繰り返さない為にも、今度は君を全身全霊を掛けて護るよ」

もうあんな思いはしたくないんだ。

「何言ってるんだよ。俺はどうなっても大丈夫だけど、サービスは駄目だ。そんなの俺が納得しないの位解ってるだろ?」
「解ってるよ。でも、私はそれじゃ納得しないんだよ。もうあんなのは嫌なんだよ」

君が死んだあの日。私は右目を抉った。でも、足りなかった、右目だけじゃ足りなかった。

「・・・馬鹿だな・・・今はこうして傍に居るんだから・・・いいじゃないか・・・」

首に腕を廻して抱き締めれば、ジャンは私の腕に額を乗せて小さく溜息を吐いた。
そしてゆっくりと振り返れば私の首に腕を廻して抱き返してくれたのだった。

私はジャンを抱き締めたまま夜空を見上げた。
あの島には適わないけれど、満点の星空を。

見上げた先で、星が一つ、光の尾を引いて落ちて行った。
私は願い事を呟いて、ジャンの身体を強く抱き締めた。

永遠に彼と居られますように、と。














サビジャン・・・。
何か抱き締めて終わらせるの好きなのかな私。ジャンをぎゅーっと抱き締めて愛でてやって欲しいという欲望の現われなのか・・・!
歳を取っても二人の喋り方は変わりません。タハハ。
ジャンが一緒に流れ星見たいと言っていたのに最後はサービス一人で見て願い事もしてしまっています。
二人で見ろよ!!!!