pure love

とうとう、湧き上がる衝動に耐え切れず彼を抱いてしまった。
彼は漆黒の色の髪を乱し、私の下で苦しそうに喘ぎを漏らす。
自分が初めての相手だったという事に、嬉しかった反面心配でもあった。自分の欲望の強さに、彼は壊れてしまわないだろうかと。




日差しの眩しさに目を覚ました。
光に負けそうになりながらもゆっくりと目を開くと、そこには私の腕の中で眠るジャンの姿があった。
ああ、夢ではなかったんだな。と、柄にも無く酷く安心している自分が居る。
ジャンは、無理をさせてしまったからだろう、疲れきってしまっているようだ。私の腕を枕代わりに小さく寝息を立てている。よくこんな固い所に頭を預けて寝られるものだと少々感心してしまった。
しかし困った、そろそろ起きて朝食の用意でもしておこうかと思ったが。彼の頭がどっしりと乗っているお陰で少々身動きが取れない。自分の腕の中で安心しきって眠りこけている彼を見るのは、飽きもしないしとても嬉しかったが、彼が起きた時にはお腹を空かせているに違いないと考える。
私はジャンを起こさないように頭の下に伸びている手をゆっくりと引き抜いて行った。腕を全部取り払い、最後に彼の頭を掌で支えながら柔らかな枕へと沈めてやる。
彼を起こさなかった事に私は安堵し、ベッドの側のクローゼットからガウンを引っ張り出し、それを着用するとそのままなるべく気配や物音を殺しながらキッチンへと急いだのだった。

朝食を作ると言っても、メニューはいたってシンプルである。
ベーコンエッグにトーストに、自分にはブラック、ジャンにはミルクたっぷりのコーヒーを。
一通りの準備を済ましてから寝室へと戻ってみると、そこにはぼんやりとした表情で寝転んだままこちらを見ている彼と目が合った。
やっとお目覚めのようだ。
ベッドへと近付けば、目を覚ました彼の隣へと腰を下ろす。

「おはよう、よく眠れたかい?」
「はい・・・」

まだ半分夢の中なのだろうか?返事は返って来たものの、些か口調はハッキリとはしない。
私はまだ寝惚け眼なジャンの頬へと軽くキスを落とす。
ジャンはくすぐったそうに肩を小さく竦め、そして私を見上げて照れくさそうに微笑んだ。

「おはようございます・・・」
「おはよう」

その声はとても小さくて、耳を澄ませていないと聞こえないのではないかと思う程だった。
ジャンはそのまま上半身を起こそうとしたが、腰に痛みが走ったのか。顔を歪ませてから枕へと突っ伏してしまった。
そういえば昨夜は随分と無理をさせてしまったと思う。ジャンの腰へと手を置くと出来るだけ優しく擦りながら耳元へと唇を寄せる。

「昨夜はすまなかったね」
「い・・・いえ・・・」

「昨夜」という単語を言った時点で既に相手の顔は真っ赤に染まっていた。
その初々しさについ笑顔が零れてしまう。

「大丈夫かい?今日はここで休んで行きなさい。どうせその状態で授業に出たって満足に動けないし、内容も頭にも入らないだろう」
「すいません」

彼の頭を撫でると小さく頷く。
そして手助けをしてやってジャンの上半身を起こしてやると、腰が痛むらしく、彼は眉間に皺を刻む。
私は痛みを和らげるように腰に枕を当ててクッションを作ってやるとジャンはまた恥ずかしげに「すいません」と謝るのであった。
そんな相手を見ているとまた欲望に火が点きそうになるが、相手は怪我人みたいなものだ。何より自分自身が彼に無理をさせたくないと思った。そう思うとなんとか我慢する事も出来る。
この私が他人の事を心配しているなんて、と自分ですら驚きを隠せない事だった。
ジャンをこの腕に抱き締めてから、どんどん彼の事を好きになっている。純情な彼はとても可愛く、無垢な笑顔は自分には少し眩しすぎる。自分は人を殺しすぎているから。

「腰は大丈夫かい?」
「えーっと・・・こういうのは初めてなのでよく解らないですけど。多分、大丈夫・・・と思います」

自分の身体の事ながら、よく解らないと言いながら彼は困ったように笑った。

「サービスが心配してるだろうなぁ・・・」

ぽつりと彼の口から零れた弟の名前。
サービスとジャンはとても気が合うらしく仲が良いみたいだった。親友と言っても過言ではないのだろうという位だった。
二人が仲睦まじい姿は微笑ましいが、少々嫉妬心さえ沸いてしまう。

「大丈夫、後でうまく誤魔化しておくから」
「すいません、あいつにだけは心配かけたくなくって」
「随分弟の事を好いているのだね」
「ええ、親友ですから」

にっこりと、笑顔で言われてしまっては言おうと思っていた意地の悪い言葉もつい引っ込んでしまうではないか。
ああ、先に好きになってしまうと弱いものだな。

ジャンが起きたらすぐに彼からの気持ちを確認しようと思っていたけれど。まだもう少しこのままでもいいかと思う。
急がなくても時間はまだあるのだから。

「さあ、朝食にしようか。簡単なものだけど私が作ったんだよ」
「本当ですか?それは嬉しいです。ありがとうございます!」

ほらまた、満面の笑みを浮かべる君が眩しくて困ってしまう。

ゆっくりでいいから、彼の事を知っていこう。
他人をこんなに好きだと思えたのは初めての事だから。
自分の欲望だけではなくて、彼を大事にしたいから。










マジジャンでっす。
すっかり続き物になっちゃってます。てへり。
マジック総帥は黒いのやら純情なのやら、ちょっと方向性を失っている自分が居ます。アハハ。
ジャンからの返事はまだ・・・ということで。(何が)