恋心

総帥と一夜を明かし。
総帥の作ってくれた朝食を食べる。
自分には眩しい位に光を放っているシャワールームを借り。
衣服を整えると、挨拶をして部屋を出た。

そうして、あっさりと自分の部屋へと戻って来てしまった。
マジック総帥には一言も自分の気持ちを伝えていないままで。





「ジャン、どうしたんだい。最近ずっとボーッとしているけど」

サービスに声を掛けられ、窓の外の空を見上げたままぼんやりとしていた事に気付く。
教室には俺とサービス以外の人影は無かった、何時の間にやら授業も終わっていたようだ。

「あれ?もう皆居なくなってるじゃん・・・」
「僕は何度も声を掛けたよ。具合でも悪いのかい?」
「んー・・・別に具合は悪く無いけど・・・」
「けど?」
「・・・何でもない」

何でもないと答えた俺をサービスは訝しげに見ている。
具合は悪くなんか無い。これは、あれだ。俗に言う恋煩いってやつ?

「ハハハ、アホらし・・・」

考えた言葉に思わず乾いた笑いが零れる。
またぼんやりと心の旅に出掛けていた俺は、サービスに首根っこを掴まれて驚き相手を見上げた。

「サービス・・・?」
「もう今日の授業は終わったんだから、いつまでも教室に居ても仕方無いだろ?」

俺はそのまま小動物よろしく、首根っこを引っ張られてずりずりと寮へと引き摺られて行ってしまった。
引き摺られながらも、部屋へと戻る間にも。俺はマジック総帥との一夜の事を思い出して独り小さく唸り声を漏らしてしまっていた。

部屋に戻ってからも俺の心の旅はまだ終わっていなかった。
朝起きてから、『君の気持ちは?』と。きっと尋ねられると思ったのに。
マジック総帥は何も聞いて来なかった。自分は俺の事が好きだと何度も言っているのに。
俺からの答えは聞こうとしなかった。

「それってなんかズルい・・・」

ベッドにうつ伏せに寝転がり、枕をぎゅっと抱き締めた。
何だか凄くもやもやする。枕を抱き締めたまま目を閉じる。

瞼の裏に焼きついているかのようにあの人の姿が浮かび上がった。
マジック総帥が俺に近付いてくる、手を伸ばし髪に触れられた、数回髪を梳く様に撫でられて後頭部へと手を廻された。
何だか見た事のある光景だった。
これは総帥と一夜を共にした時の夢だと気付く。
あの人の顔が近付く、手が俺の身体を翻弄する。
抱き締められて、耳元で何度も好きだと囁かれた。

「・・・・マジック総帥」

相手の名前を呼んで、『好きだ』と、伝えようとした所で目が覚めた。
いつの間にか寝入ってしまっていたようだ。陽は沈みかけていて、部屋の中は電気も灯っておらずに薄暗い。
一緒の部屋に居ると思っていたサービスは、何時の間にやら居なくなっていた。高松の所にでも行っているのだろうか。
俺は枕を抱き締めたまま眠っていたらしい、さっきまで見ていたマジック総帥の夢を思い出すと恥ずかしくなり。そのまま枕に顔を埋める。

「マジック総帥・・・」
「何だい?」
「・・・・・・へ?」

総帥の名前を呼んだら、返事が返って来た。俺は間抜けな声を漏らしてガバリと枕から顔を上げた。
薄暗い部屋の中に経っていたのは、今名を呼んだその人だった。

「マママジック総帥!?どうしてここに!」
「サービスから連絡があってね」
「サービスから?」

俺は二段ベッドの上から枕をまだ胸に抱いたままマジック総帥を見下ろした。
どーしてサービスが?

「君が私の部屋から帰って来た日から様子が変だと言われてね。兄さんが原因じゃないのか、様子を見て欲しいと言われてね」
「そうなんですか・・・」

サービス、心配してくれるのは嬉しいけどこのタイミングはちょっと・・・。

「それで?」
「はい・・・?」
「さっき私の名前を呼んだじゃないか。何か言いたい事があるんじゃないのかい?」
「あ、あれはその・・・!!」

俺は顔を真っ赤にして独りで焦る。
あれは誰も居ないと思ったから呟いた言葉なのに・・・!とパニくってしまう。
枕を潰れんばかりに抱き締めてから総帥の顔を覗き見ると、「ん?」とにっこりと笑顔を向けられてしまう。
これはもう言うしかないのか。

「あ、あの・・・ですね」
「うん、何だい?」
「俺、その・・・総帥を・・そのぉ・・・」

ああもう、心臓がバクバクと壊れそうな程早鐘を打っている。
顔も火が出るんじゃないかって位熱を持っていた。
俺、恥ずかしさで死んでしまうかも・・・。
耐え切れずに枕に顔を埋めて、う〜と唸っていると。いつの間にかベッドへマジック総帥が上がって来ていた。
枕に顔を埋めたまま抱き締められて、更に恥ずかしくなってしまう。

どうしよう。気持ちを伝えたいけれど、でも総帥はそれを望んでいるのだろうか?
色んな考えが交差して、頭の中は渦を巻いているようにグルグルと色んな物が廻っている。
そうして混乱していると、俺の頭上からマジック総帥の優しい声が降ってきた。

「きっと私が欲しい言葉だと思うよ。だから君の口から聞きたいんだ」

俺が何て言おうとしてるか解ってる?そしてその言葉を俺の口から聞きたいと言ってくれている。

ヤバイ、凄く嬉しいと思ってしまった。
俺はこの人に逢う度に、この人の事をどんどん好きになって、俺はどんどん弱くなってしまっているような気がする。

「俺・・・マジック総帥の事が、好き・・・です・・・」

遂に言った。でも俺は恥ずかしさが勝って枕から顔は上げる事は出来なかった。
マジック総帥は何も言わない。聞こえてないのかと思って不安に思って枕から顔を上げようと思ったら、強く抱き締められた。
ちょっと息苦しい位に。

「嬉しいよ。君がそう言ってくれるなんて夢みたいだ」

相手の腕の中で少しもがいてから顔を上げれば、そこには満面の笑顔を浮かべたマジック総帥が居た。
その笑顔にドキドキしてしまう。
好きだと自分の気持ちを伝えた事でこんなに喜ばれるとは夢にも思わなかったから。

「俺も嬉しいです・・・。そんなに喜んで貰えて」
「ありがとう。私も好きだよ・・・」

頬に触れるだけの口付けを落とされて、それだけで嬉しくて何だか泣きそうになってしまった。
俺もマジック総帥の頬に触れるだけの口付けを返した。
そして、大好きな人の腕の中に抱き締められたまま目を閉じた。

まるで時間が止まっているみたいだった。
ずっとずっと、この時間が続けばいいのにと願いを込めながら相手の胸元へと顔を埋めて背に腕を廻した。

相手が敵である事も忘れてずっとこうしていたいと願っていた。










尻切れトンボ!
マジジャンです。やっと告白。順番バラバラダヨ!