苺色



「好きだよ」



しん、と静まり返った部屋に自分の声がやけに響く。
告白をされた相手は、クッキーを頬張っていた口をぽかんと開いていた。それと同時にクッキーが床へと転がる。
あまりに呆けた表情の相手を見ると不安になる。ちゃんと聞こえていなかったのだろうか。

「ジャン、好きだよ」

もう一度。呆けた相手の顔を見つめて告白の言葉を口にする。

「・・・えっと・・・サービス熱でもあるのか?」
「僕は至って健康なんだけど」
「そっか、あー・・・じゃあ俺の幻聴かな」
「ジャン、僕が言ってる言葉聞こえているよね?」
「聞こえた気がするけど、その内容に凄く自信が無い」

ジャンの言葉に僕は訝しげに相手を見遣る。
自信が無いとか幻聴だとか、この男は何を言っているんだか。僕から告白されたという事がそんなに信じられない事なのだろうか。
僕はこんなにも勇気を振り絞ってこの言葉を発したというのに。

「その顔であんまり見つめないでくれ・・・」
「どうして?僕に見られるのは不快なのかい?」
「いや寧ろ照れるというか・・・」

そう言うとジャンは僕に背を向けてしまった。

「ジャン、聞こえ辛かったならもう一度言おうか?」
「いや、いい・・・ちゃんと聞こえてる」
「じゃあ、返事を貰ってもいいのかな?」
「返事・・・そうか、うーん・・・ちょっと待ってくれ・・・」

ジャンはガシガシと乱暴に頭を掻いている。
あの何も考えていなさそうな男が、悩んでいる。しかも至極真面目に。
後ろを向けられている為、表情を読み取る事は出来ない。ジャンは、僕の事を好きじゃないんだろうか。

「ジャン」
「ん〜・・・?」
「好きだよ。君を初めて見た時から喋った時から。ずっとずっと君の事が好きなんだよ」
「熱烈だな・・・」

仕舞いには両手で頭を抱え込んでしまっている。
僕は益々不安になる。

「ジャン、返事。聞かせてくれないかな」
「・・・・・・・・」

頭を抱え込んだまま、ボソボソと何かを呟く声が聞こえる。
でも声が小さすぎる、声は形とならずに僕の耳へと入って来る。

「何?聞こえないよ」
「だからっ・・・!好きだって・・・俺も・・・」

半分ヤケになったようにジャンは声を上げ、同時に顔を左右に。ぶんっと強く振った。
その時見えた彼の頬は、恥ずかしいのか。苺色に染まっている。

「僕の事好きって、ホントに?」
「何度も言わせるなよぉ・・・」

「好きだ」という返事を聞いただけで、さっきまでのもやもやは綺麗さっぱり。何処かへと飛び去ってしまっていた。
僕は背を向けたまま膝を抱えて丸くなっているジャンを、後ろから抱き締める。
彼の身体は、紅潮の所為か、はたまた体温が高い所為なのか。とても暖かくて気持ちが良かった。

僕は幸せを噛み締めるように、長い時間彼を抱き締めて。
そして耳元で何度も「好きだよ」と呟き続けたのであった。










サビジャンです。甘々バカップル?
誰に対しても恥ずかしがりやなうちのチン、もといジャン。
うちのサービスは大人しすぎるような気がする。