ジャンからの告白を受け、晴れて両想い。
これから、二人の楽しい時間を沢山作りたいものだ。と、考えていたが。
世の中なかなかうまくいかないように出来ている。
お互いが忙しい身の上の為、お茶を飲む時間すら作れずにいた。
ジャンの告白から、もう3週間が経とうとしていた。
今日も今日とて書類の山に囲まれている。
軽く目を通してから印鑑を押す。至って単純な作業だが、これが連日何百枚にも上るものだから、流石の私も少々疲れてしまっていた。
幾つもの文字を追いかけている所為だろう、視界も薄らぼんやりとし、文書を横流しで読むスピードも落ちて来た。
そろそろ休憩を取らなければ。
そう思いながらふと壁に掛けてある時計を見上げて見れば、短針は11の数字の上を指していた。
「もうこんな時間か・・・」
疲れた、仕事を切り上げ今日はもう早目に寝てしまおうか・・・。
思い、背凭れに身体を預けたと同時に扉をノックされる音が静かな部屋に響いた。
遠慮がちな音に、また秘書が書類の束を抱えて来たのだろうと、憂鬱な気分で扉に声を掛ける。
「開いているから勝手に入りたまえ」
少し苛付いたような声を上げてしまったが、疲れている為に気にする事も出来なかった。
一瞬間があって、それからドアノブがゆっくりと回転し扉が少しずつ開いていく。その少し開いた扉の間からひょこりと見知った顔が現れて、私は思わず声を失ってしまった。
私が、今逢いたくて逢いたくて止まない人物がそこに居たのだから。
「あの・・・お忙しそうですね、すいません出直して来ます」
「ジャン!待ちなさい、大丈夫だから中に来なさい」
「でも・・・」
「君がもしここで帰ってしまったら、それこそ私はストレスと過労で倒れてしまうよ」
「それは、困りますね」
ジャンは私の言葉に笑って、そして観念したように部屋の中へと足を踏み入れた。
「でも、お疲れだと思うので少しだけ」
「いらっしゃい」
私が微笑むと彼も嬉しそうに笑顔を返してくれたのだった。
その笑顔を見ただけで、先程の仕事疲れは何処へやら。
ジャンの姿を見ただけで癒されてしまったようだった。ジャンに近付き、自分の腕の中に納める。久し振りの彼の感触に感動すら覚えてしまった。
嬉しすぎてどうにかなってしまいそうだ。
「元気にしてたかい」
「はい、総帥はお忙しそうですね。さっきノックした時も、声を聞いて入らない方がいいかと思ったんですけど」
はて、自分がどんな声色で言ったのか覚えていない。
「不機嫌そうな声だったかい・・・?」
「えーっと・・・」
ジャンは抱き締められてまま私を見上げて困ったように笑っている。
迂闊だった、ジャンだと解っていればそんな声など出さなかったのに。
「すまない、秘書の者がまた仕事を持って来たのかと思ってね」
「いえ、俺は大丈夫です。でも、秘書の人にもあーいう声は出さない方がいいですよ?」
「叶わないね、これから気を付けるとしよう」
ジャンの綺麗な黒髪にキスを落とす。するとくすぐったそうに身を捩るものだから、逢えるだけでいいと我慢していたのに抑えが利かなくなりそうだ。
お互い、明日も休みではないのだけど。
「ジャン」
「はい?」
「我慢していたんだが、君を抱きたくて仕方ないんだよ」
「それは・・・応えに困るんですが・・・」
私の言葉にジャンの顔には見る見るうちに紅が射していく。そしてそれを隠すように私の胸へと顔を埋めてしまう。
「駄目かな?」
「駄目じゃ・・・ないです」
嬉しい返事だった。
その初々しい反応に、なけなしの理性が揺らぐ。
ジャンの顎に手を掛けると上向かせる、そのまま唇を合わせ、そしてソファへと彼の身体をゆっくりと押し倒していったのだった。
肌寒さに目を覚ます。
少し寝惚けたままの頭で辺りを見渡してみる。
ジャンはしっかりと私の腕に包まれて眠っていた。私に抱かれているからそんなに寒くないのだろうか、彼はぐっすりと眠りについている。
その愛しい彼の頬に口付けを落とし、ゆっくりと目を閉じる。
理性が吹き飛びそうになりながらもそれを何とか繋ぎとめ、しかし貪るようにジャンを抱いた。
疲れ切って二人でソファに横になったまま眠りについたようだ。
夢を見た。
ジャンが、死んでしまう夢だった。
何だかやけに生々しい夢だった。思い出しただけで不快感に苛まれる。
虫の知らせというやつだろうか。嫌な予感がする。
彼がもう二度と手の届かない、遠い所へと行ってしまうような、そんな気がする。
「そんな事はさせない・・・」
腕の中で安心しきって眠っているジャンを強く抱き締めて呟く。
例えこの夢が現実に起ころうとしても、絶対にそんな事はさせないと。
「ん・・・マジック総帥・・・」
私の背に腕を廻してジャンが呟く。寝言のようだったが、それでも涙が出そうな位に嬉しさがこみ上げる。
愛しい。
「君を永遠に護り続けてみせるよ」
眠っている相手には届かないだろうけど。
でも、そう誓ってみせる。
君が何者であっても、私は君を護り続ける。
どんな事があろうとも。
執務室にある大窓からは、大きな満月が私達を照らしていた。
いつまでも。
マジジャンです。
纏まってから話を書こうと何度思った事か・・・。もういいや(投げやり)
ジャンの死が近付いている事を予知しているマジック総帥。
かーなーりドリーム入ってます。悪しからず・・・!