うたた寝

風がふいて白のカーテンがふわふわと踊る。
初夏の日差しは心地良く、鮮やかな眠りを誘ってくれる。
コンコンとノックの音が部屋の中へと響いた。しかし部屋の中からは何の反応も無く、数秒置いてからまたノックの音が木霊した。
幾ら待っても返事が無いので、部屋を訪れた人物は痺れを切らしドアノブへと手を掛けた。
扉は音も立てずにゆっくりと開いていく。
そこから姿を現したのはジャンだった。

研究室に居る筈の人物を探してみる。
パソコンが置かれている机には捜している人影は見られない。
はて、おかしいなと思いながら部屋に入りドアを閉める。
そしてぐるりと部屋を見渡してからやっとその人物を見つける事が出来た。


研究所に添え付けられているソファには、高松が眠っていた。
珍しい事もあるものだと、ジャンは目を丸くし。忍び足でソファへと歩み寄った。

普段なら絶対と言ってもいい位見られない光景である。
寝るならベッドで寝ないと肩が凝るとか、中途半端だと逆に疲れるとか、高松はいつもそう言ってこういう場所で眠る姿なんて見た事が無かった。
ジャンは興味津々に近付き、上から高松の寝顔を覗き込んでみる。
身体を横にして眠っているその寝顔は意外に安らかなものであった。
普段見ない姿なだけに、ジャンは少々心配にも思った。
疲れが溜まっているのだろうか。ちゃんと休憩や、睡眠を充分に取っているのだろうかと。
手を伸ばし、眠っている相手の頬を軽く指先で突付いてみる。
眉がぴくりと小さく動く。起こしてしまったかと思って慌てて手を引っ込めるが、安らかな寝息が聞こえて来てほっと胸を撫で下ろした。
高松が寝ている隣に相手を起こさないように座って相手の長い黒髪を手に取ってみる。
特に何か特別な手入れをしている風にも見えないのに、綺麗な黒髪だと感心してしまった。


そうして暫く高松の寝顔を眺めていたが、相手が起きる気配は一向も無い。
かと言って疲れているであろう相手を無理矢理起こす趣味も無く、ジャンは諦めたように立ち上がった。

「たまにはゆっくり休憩しなきゃな、いつも働きすぎなんだよお前は」

高松を起こさないように小さな声で呟き、そして身体を屈めると唇に掠めるようにキスをした。
ちゅっと軽く湿った音が部屋に響いた、高松の寝顔を見つめてジャンは笑顔を零しそのまま静かに部屋を出て行った。


部屋の扉がパタンと閉まったと同時に、パチリと高松の目が開いた。
そして起き上がるとソファの背凭れに深く背中を預けて天井を仰ぐ。片手で覆った顔は少し紅みを帯びている。

「働きすぎはお互い様でしょう・・・まったく、恥ずかしい事を・・・」

手で顔を覆ったまま、たまにはこういうのも悪くは無いと。高松は小さく笑みを零したのだった。








ほのぼの高ジャン。
高松はソファとか椅子とかで迂闊に寝る事が無さそうと勝手に妄想。
逆にジャンは芝生だろうがベンチだろうが何処ででも寝そうな気がします。