焼け野が原

それは信じられない。いや、信じたくない言葉だった。

「・・・もう一度言ってくれないか?」
「サービスと同室の男が居ましたよね。名前はジャン、これが彼の血液検査の結果ですよ。兄さん」

私の机の上にファイルが置かれた。
私はそれを、手に取れなかった。
そんな私の気持ちとは裏腹に、弟のルーザーはファイルを乱暴に開き。そこに載せられているジャンの写真を、上から掌でバンッ!と強く叩いた。

「彼は、赤の一族です」

ああ、知っていたさ。
でも気付かない振りをしていた。
気付きたくなんて無かったのに。







「マジック総帥、どうしたんですか。ぼーっとしちゃって・・・?」
「ん、何でもないよ。それより、今度の戦場へはいつ向かうんだったかな」
「えっと、5日後ですね。もうすぐです」
「そうか・・・」

以前感じた時と同じだ。嫌な予感がする。
彼を戦場へ行かせてはならないと、頭の中に警告音が鳴り響いている。

「サービスも一緒ですから。ちゃんと無事に戻って来ますよ」
「本当かい?」
「・・・ええ、約束します」

君は少し困ったように笑う。
自分自身でも感じ取っているようだった。得体の知れない何かを。
最悪の事態が頭を過ぎりそうになり、こんな事では行けないと頭を振る。

「絶対に無事に帰って来るんだよ」
「はい、ちゃんと帰ってきます」

そう言って戦場へ出掛けた君。
私は君を助ける事が出来なかった。
あと、数分。
ルーザーより先に私が着いていれば状況は違ったのかもしれない。

君は死なずに済んだのかもしれない。


ルーザーを、サービスが目を覚ます前に立ち去らせてから。私はジャンの元へと向かった。
弟の秘石眼をまともに受けたその身体は、大きな岩を背に血だらけになり。ピクリとも動かなくなってしまっていた。

5日前には、私の目の前に居て。元気に動き回っていたのに。
あの時交わした言葉が最後になるなんて。

「ジャン」

動かない彼の頬へと手を添えた。
いつもはとても高い体温が、今はまったく感じられない。

彼の肌は、ただただ冷たいばかりだった。

「ジャン・・・」

もう一度名を呼んで。
ジャンの身体を引き寄せて抱き締める。
力の無い身体は私の身体に凭れてくるだけだった。

「ジャン、返事をしてくれ。頼むから・・・」

動かない。
本当に、死んでしまったのだ。

「ジャンっ!」

私は強くジャンの身体を抱き締めた。
その身体からは、鼓動も、温もりも感じられない。
それが信じられなくて、何度も彼の名前を呼んだ。

「すまない・・・ジャン、君を護ると誓ったのに・・・」

大切なモノ一つ護れないなんて。

自分の頬に温かい何かが伝った。

涙だった。

ジャンの身体を掻き抱いて、幾粒も涙を零した。


どれ位の時間が経ったのか。
何時間もそうしていたように思うが、実際はほんの数分だったのかもしれない。
私は、ジャンの身体から離れ立ち上がった。

涙はいつの間にか乾いていた。

私は表情を作れないまま、踵を返した。
まだ弟が、サービスが居る。
弟を、無事に連れ帰らなければきっと君は怒るだろう。

重たい脚を引き摺り歩き出す。
サービスが倒れている場所へと向かって。


そして、私はその場を一度も振り返る事は無かった。








マジジャン死亡話。
暗い・・・。パパ泣かせてしまいましたYO・・・。
そして初ルザ兄。居て居ないようなもんでしたが。