初恋クレイジー6

「見舞いに来たければ来てもいいよ」


その言葉を聞いて、ふらふらとここに来てしまった。
俺が立っている場所はサービスとジャンの部屋の前。
扉は俺を拒絶するかのように閉ざされている。
サービスは俺の部屋から出た後、この部屋には戻っていないようだった。きっと悪友の高松の所にでも行ったのだろう。
俺は眉間に目一杯皺を寄せて、ジャンが居る部屋の扉を穴が開かんばかりにばかりにじっと睨み付けていた。
ここで考え込んだって仕方ない。だが、あんな事をしてしまった手前逢い辛い。それに逢ってどうしたらいいのか解らなかった。
俺の所為で相手は動くのも辛い状況になってしまったと言うのに、その元凶が来るのだから。ジャンにとってはもう最悪の状況だろう。

「もうここまで来ちまったし・・・ここでぐだぐだ考えても仕方ねぇ!」

俺は自分を奮立たせるように声を上げると、ドアノブへと手を掛けた。



扉を開くと、部屋の中は電気も点いておらずに薄暗い。
以前この部屋に侵入した時の事を思い出して、少し複雑な気分になる。
少し行けば二段ベッドが目に付き、今回も下の段にはカーテンが引かれ閉められていた。
俺はカーテンに手を掛けると、今度はゆっくりとそれをスライドさせていった。

カーテンを開くと、こちらに背を向けた状態で丸くなって寝ているジャンを見つけた。
眠っているのだろうか・・・?
俺はベッドへと近付き、相手の顔色や寝ているのかという事を確認しようと思い。ベッドに手を掛けてジャンの顔を覗き込もうとした。
その時、僅かだったがベッドが軋み。その音と揺れ、俺の気配にジャンは目を覚ましてしまった。
俺はジャンに少し覆い被さるような形のまま息を殺して動けなくなってしまった。
ジャンは最初は目を開いてすぐだった所為か、虚ろでまだ焦点も合っておらず。俺の顔をぼんやり見上げていたのだが、段々と意識が覚醒していくに従ってぼんやりとした表情が無くなってきていた。ジャンは目を大きく見開いて俺を見上げている。
俺はどうしていいか解らなくなって口を開いた。

「よぉ・・・」

自分としても何とも間抜けな言い方だったように思う。
しかしジャンは俺の声を聞いた途端に更に顔を強張らせてしまった。

「・・・や、やだ」

そしてジャンの口から出たのは、搾り出したように掠れた拒絶の言葉。
その言葉を聞いて、俺は胸の奥に違和感を感じる。

「今日は襲ったりしねぇよ。だからそんなに怖がるな」

俺は手をジャンの頬へと伸ばした。俺の手が頬に届く直前にジャンは固く目を閉じて身体を強張らせた。
その震えを我慢するかのように唇を軽く噛み締めている。俺の手が頬に触れるとビクリと身体を縮こませてしまう。
嫌われたもんだ。当然の結果だし当たり前の反応だと思うのに何だか切なさが込み上げる。
そして胸の奥では小さな針が心臓をチクチクと痛めつけているのだ。

「・・・悪かった」

もう傷付けたりしないから。
それ以上俺を拒絶しないで欲しい。

ジャンは俺の言葉が耳に入ったのか、おずおずと目を開き俺の顔を酷く不安そうに見上げる。
俺は今どんな顔をしているのだろうか。

「ハーレム・・・?」

ジャンが俺の名前を呼んだ。
なんだかそれだけで泣きたくなるような気分だった。

これ以上ジャンに嫌われたく無かった。
そして気付いてしまった。自分がジャンにどういう感情を抱いているのかを。

俺はジャンの背に腕を廻した。
ジャンは驚き、恐怖を感じたのか俺の下でまた小さく震えた。
ああ、こんな風に怯えさせたかった訳じゃなかったのに。

「何もしねーから」

ジャンは無言で首を緩く横に振り。そして俺の腕から逃れようと腕を突っぱね、身を捩ろうとした。

「・・・痛っ」

ビクンと一瞬身体を跳ねさせてジャンの動きが止まった。
俺に無茶な事をされた所為か、身体が痛むのだろう。腰を抑えて痛みに耐えるように歯を食いしばっている。
目元には痛みの所為か恐怖の所為か、薄らと涙が滲んでいる。

「ジャン」

俺は相手の名前を呼んで、身体に負荷を掛けさせないように優しく抱き締めた。
ジャンは最初はまた逃げようとする。

「悪かった、もうあんな事しねーから。逃げないでくれ」

ジャンは俺の言葉に身動ぎを止め、大人しく抱き締められていた。
抱き締めたジャンの身体は暖かく、そしてまだ微かに身を震わせていた。

俺は自分のした事に激しい後悔をし、暫くジャンの身体を抱き締めていた。





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怯えるジャンが書きたかった話(ぉーぃ!)
獅子舞やっと自分の恋心に気付きました。(6話目にして)
本当にすいません。そろそろ終わりが近いかな!?