ただいま。

あの戦場で自分の身体が死んでから、故郷の島へと連れ戻される形で意識だけで帰って来た。
赤の秘石は、すぐに元の身体と同じ物を俺に作り渡してくれた。
俺はそれを多少複雑に思いながらも空の身体に意識を入れ、そして赤の秘石に任務が失敗した旨を告げた。
赤の秘石は笑って、『大丈夫ですよ』と言った。
きっともう次の策を考えているのだろう。

俺は咎められなかった事に少し安堵し、そして哀しくもなった。
青の一族との諍いは一体何時まで続くのだろうか。


島に帰ってから毎日何をするとも無くぼんやりとした日々を送る。
青の一族の状況は赤の秘石から時々聞いていた。向こうの映像も見せる事が出来ると言われたが、マジック総帥の姿を見てしまうとどうしていいか解らなくなってすぐにでも逢いに行きたくなってしまいそうだったから。向こうの状況が聞ければ十分です。と、断り続けた。
あの人と離れてしまってからは、ただただ毎日が過ぎ去るばかりだった。
この南国の島では時間が穏やかでのんびりとしている。その所為か時間が有り過ぎて、思い出したくないのに。つい、あの人の事を想い出す。
忘れたい訳では無かったけど。でも、もう逢えないのにあの人の事ばかりを想い出すのは辛かった。
出来る事なら任務の事なんか忘れてずっとあの人の隣に立って居たかった。
そんな事は到底叶わない夢物語のような事だったけど。
でもそんな夢のような事を現実にしたかった。

逢いたい逢いたい逢いたい。
こんなに何かに執着した事なんてなかったから、どうしていいか解らない。
身体が死んだあの時、覚悟を決めて帰って来た筈だったのに。
心のたがが外れたように想いが溢れて止まらない。
毎日あの人の事を想い出しては蒼く澄んだ水平線を眺めていた。




あれから25年の月日が経っていた。
シンタローがこの島に来てからは、時間が加速したように思う。
毎日が目まぐるしく過ぎて行った。

シンタローがガンマ団へと帰ってからは、更に怒涛のように色んな事が起こり始めた。
今は一番大事な息子の為に、あの人は大きな母艦を携えてこの島へとやって来た。

島は狭いから艦の外に出ていたあの人を幾度か目にしたのだけれど、今は以前よりも明らかに赤と青という立場が深く。
声を掛ける事すら間々ならなかった。

シンタローと一体になろうとしたが出来ず。俺はまた意識だけの存在になったまま、遠くからあの人を眺めて居た。

(マジック総帥・・・)

ずっとずっと逢いたかった。
本当は、今すぐにでも貴方の背中に縋り付いてしまいたいけれど、今の俺には無理だった。

(俺は島を守らなきゃいけないから・・・)

どうしようもなく仕方のない事だったけど、心臓が鷲掴みにされたように痛む。



青と赤の争いで島は深手を負った。
何かもが終わって、俺は今にも動き出そうとしていた箱舟の中で途方に暮れていた。
これでもう、本当に二度とあの人に逢う事は無いのだと考えると頭の中が真っ白になってしまって。何も考える事が出来なくなってしまった。
思考回路が停止してしまうと身体の機能も失われたかのように身動き一つ取る事が出来ない。
俺は箱舟の入り口で立ち尽くす。

「お前何をしてるんだ?」

背後から声を掛けられてやっと身体をを動かして振り向かせる。

「パプワ様・・・」
「お前、戻りたい場所があるんじゃないのか?」
「そんな事は」
「大人は本当に面倒だな。もう終わったんだ、自分のしたいようにしたらいいんだ」
「ですが」
「お前の代わりならもう居る」
「パプワ様!」
「だから、難しく考えないで思った通りにしたらいいんだ。お前はもう充分島の為に尽くしたじゃないか」
「・・・っ」

俺はまだどうしていいか解らず。無意識に赤の秘石を見つめた。

『行きなさいジャン。逢いたい人が居るのでしょう、もう我慢しなくてもいいんですよ』

赤の秘石は囁く様に言ってから、俺に新しい身体をくれた。
俺は新しい身体に意識を溶け込ませる。

「ありがとうございます・・・っ・・」

言葉と共に嗚咽が零れ、この島を離れる哀しみや、あの人に逢える嬉しさが一緒くたになり。どちらともつかない涙が頬を伝って零れて行った。
最後に皆に深々と礼をしてから、俺は動き出した箱舟から飛び降りたのだった。



久し振りに戻ってきた団内は思っていたよりも広く感じ、久々過ぎた所為か迷ってしまった。
記憶を辿り必死に道を思い出す。
あの人の私室はこんなにも遠かっただろうかともどかしくなる。

軽く一時間以上は彷徨い、やっとの思いであの人の私室へと辿りついた。
やっと逢える。
堅く閉ざされた扉をノックしようと上げた手は震えている。
どうしよう、どんな顔をしたらいいんだろう。
あの人は、俺がここに戻って来た事を喜んでくれるだろうか?

自分が逢いたい一心で帰って来てしまったけれど、あの人の気持ちなんて考えても居なかった。
そう思うと、途端に怖くなってしまった。
一度はノックしようと上げた手を下ろしてしまい。
扉の前に立ち尽くす。

「ジャン・・・?」

背後から声を掛けられた。
その声は、今まで忘れた事なんか一時も無かった。あの人の声だ。

「あ・・・」

俺は相手に背を向けて立ち竦んだまま俯いてしまう。
鼓動が早くなって自分の耳に煩い位に響く。

「ジャンなのかい?」

顔を上げる事も振り返る事も出来ないまま、俺は静かに頷いた。

どうしよう。どうしたらいいんだろう。

そんな事を考えていると身体が暖かい物に包まれた。
この忘れられない感覚は、そうだ、あの人の腕の中だった。

「ま・・・マジック総帥・・・」
「逢いたかったよ・・・ジャン」
「・・・本当に?」
「ずっと待っていたんだよ」
「・・・っ!俺も、ずっと・・・逢いたかった・・・」

後ろから抱きしめられたまま、嬉しくて涙が零れる。
片手で手の甲で目元を押さえるが涙は溢れて止まらない。
俺は振り返り、マジック総帥の腕の中へ飛び込んだ。

「マジック総帥・・・俺・・・ずっと、ずっと逢いたくて・・・」
「本当に君をまたこの腕の中に抱きしめる事が出来るなんて、夢のようだよ」
「夢じゃないです・・・」
「そうだね・・・。もう、何処にも行かないでおくれ」
「行きません、もう貴方の傍を離れません・・・!」
「私も、もう君を離さないよ」

マジック総帥の両手に頬を包まれて上向かされた。
俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔のままあの人を見上げた。

「お帰り」
「ただいま・・・」

マジック総帥は皺の刻まれた顔で優しい笑顔をくれた。
俺は涙で濡れた顔のまま、心の底からの笑顔を返した。









マジジャン一応完結かな?
管理人が最後はハッピーじゃなきゃイヤ!な人なのでハッピーエンド。
マジジャンよ永遠なれ!