初恋クレイジー7

抱き締めた身体はとても暖かく、陽の匂いがした。



俺はジャンを怖がらせたくなかった。
ジャンを抱き締めたまま背中を何度も摩る。暫くそうしていると、次第にジャンも落ち着いて来たらしく。身体の強張りは徐々に解けていく。
俺の胸元にはジャンの顔があって、本当はきつく抱き締めたい位だったが。そんな事をすれば益々怯えられるだけだと解っているから欲望を必死で抑え込んだ。俺にしては実に健気な事である。

ジャンの身体から完全に強張りが解けた所で、俺はそろりと相手の顔を覗き込んでみる。
すると上目でこちらを伺う相手と目が合った。
俺はどうしたもんかと思い口を開く。

「あー・・・お前さ、俺の事どう思う?」
「どう・・・って聞かれても・・・」
「そっか、そうだよな。返答に困るよな」

まどろっこしい。
俺はズバっと言ってしまう事にした。

「あのよ。俺、お前の事が好きなんだけど」
「・・・からかってんのか?」
「からかってなんかねーよ」
「好きなのにあんな事したのか?」
「それは弁解の余地もねーが。仕方ねーだろ、お前が色気振りまいてたんだから」
「色気!?そんなもの振りまいてない!」

大声を張り上げてジャンはガバリと身を起こした。
と、同時に腰に激痛が走ったらしい。声も無く叫びを上げるとそのままへなへなと俺の胸に倒れこんでしまった。

「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃない・・・」

うう・・・と小さく唸り、痛みに耐えながら反論されてしまった。
この痛みの元凶は自ずと知れた事だったから返す言葉も無い。
痛みに涙目で上目遣いで見られる。その表情は反則ダロ。と思ったが口には出さず。

「本当か・・・?」
「あ?」
「からかってないのか?本当に、俺の事が好きなのか・・・?」

じっと、今だ涙目のまま見つめられる。
その表情を見てるとむらむらしてしまいそうで目線を外したかったが、それを食止め見つめ返す。

「本当だ、俺はお前が好きだ」

再度俺の気持ちを伝えると、ジャンは今度は俯いてしまった。
しょうがない、良い答えなんて最初から期待なんてしていない。
俺は取り返しのつかない事をしてしまっているのだから。
俺は、はぁと軽く溜息を吐く。

「困らせるような事言っちまって悪かったな。具合も確認した事だし、俺は戻るぜ」

ベッドから降り立ち、「じゃあな」とそのまま部屋を出ようとした・・・のだが、シャツの裾を引っ張られて動く事が出来ない。
振り返って引っ張られている場所を見遣れば、ジャンが俯いたまま俺のシャツの先を握っている。

「・・・・るい」
「何だ?」
「何かずるい、お前ばっか勝手な事して勝手な事言って!俺の気持ちも答えも無視かよ!」
「つっても・・・お前、あんな事しちまった俺の事嫌いだろ?」
「嫌いだなんて一言も言ってない」
「じゃあ・・・その、好き・・・なのか?」
「・・・・解んない・・・」
「はぁ?」

少し期待してしまった所にこの返答。俺は思わずがくりと肩を落とす。

「だって、あんな事されたけど・・・嫌いじゃねーんだもん!でも、好きかなんて解んねーし!」

『あんな事』を思い出してしまったのか、ジャンは真っ赤になって捲し立てる。

「解んねーよ!どうしたらいいんだよ・・・」

やり場の無い想いをどーにかしたいのか、ジャンは枕を抱いて顔を埋めている。
俺はベッドに腰掛けて相手の頭にそっと手を置いた。
ジャンは、それに気付くと枕から目元だけを覗かせて困ったように俺を見ている。
俺はその目を真っ直ぐに見つめて口を開いた。

「俺の事が嫌いじゃあないんだな?」

枕を抱き締めたままジャンはこくりと小さく頷く。

「じゃあ、俺と付き合えよ。嫌だったら別れればいいだろ?」
「そういうのって・・・どーなんだ?」
「俺は結構マジで言ってんだけど」

手を後頭部へと廻すと、そのままジャンを引き寄せて枕ごと腕の中に納める。

「もう傷付けたりしねーから・・・」
「ハーレム・・・」

相手の耳元で懇願するような声を出している自分は、普段の俺からしたらとても滑稽な姿にしか見えないだろう。
でも、俺は本気だった。真剣だった。

「好きなんだよお前が・・・!だから、頼む」
「・・・・・・」

しん・・・と音も無く部屋の中は静まり返っている。
暫くしてから、ジャンの頭がこくりと頷いた。俺は一瞬見間違いかと思う。

「解った・・・」

頷きに次いで聞こえた声。
ジャンの顔は俺の肩口にある為に表情を伺う事は出来なかった。

「ほ、本当か!?」
「自分で頼むって言ったのに信用しないのかよ」
「そうだけどよ」

くすりとジャンは小さく笑ってから、少し身体を離して俺の顔を見遣る。
その目はまるで黒真珠のように綺麗に映る。

「お前って、変なやつ」

ジャンは困ったように笑ってから、俺の手を取り両手で包む。

「えっと、これからよろしく・・・」
「・・・ああ、よろしく」

返事を返して、俺は壊れ物を扱うかのようなぎこちない動作でジャンの頬に手を触れた。
触れた指先はジンと熱くなり、俺は喜びに声も出せずに居た。

もう二度とジャンを泣かせたくないと思った。
ずっと大事にしたいと、そう思ったのは初めての事だった。

俺は祈るように相手の手を取り、指先に口付けたのだった。











初恋シリーズ(何それ)お・・・終わりです。
ここからハレジャンは始まって行くのです!(むりくり纏めようとする)
そしてジャンはまだ好きとも言ってませんね。
ハーレム微妙ですいません。色々謝る所はいっぱいですね・・・。