あなたのそばに 後編

仮眠のつもりだったけど。疲れていた所為か、俺は夢を見る事も無く。昏々と眠り続けた。
ソファで眠っていた為に、寝心地が悪く、無意識ながらに何度も何度も寝返りを繰り返す。
そうして、何度目の寝返りだっただろうか。
俺は、ふと頭に違和感を感じて身動ぎをする。
ソファにしては、ちょっと頭の位置が高くなっているような気がするのだ。
何かが頭の下になっていて枕代わりになっているようなのだが、如何せん、まだ眠気が強く。確認しようと目を開けようとするものの、目覚めようとする意識とは裏腹に瞼は鉛がぶら下がっているんじゃないかと思う位に重たく感じた。
それでも何とか現状を理解しなければと、手の甲を目元に当て、乱暴に擦る。刺激を与えれば少しは眠気も取れるだろうと思ったからだった。
なかなか開こうとしない瞼をもう一度乱暴に擦れば、聞き慣れた声が耳へと飛び込んで来た。

「こら、そんなに乱暴に擦っては駄目だろう」
「・・・へ?」

凄く聞き覚えのある声・・・だが、まだ頭は覚醒しきっておらず。誰だっけ?と、回転の悪い頭で必死に考えていると、目元に置いていた俺の手に大きな温かい手が重なって。そっと、静かに手を退かされていた。
重たい瞼を懸命に開けば、暗闇から起き出したばかりの目はまだ光に馴染まず。
しかしぼやけた視界の先にあるのは、眩しい位の金の髪。

「あ・・・まじっくさま・・・?」

金色の髪だけで曖昧なまま相手を判断すれば。「そうだよ」と、優しい声が降って来た。
その声の位置からして、どうやら俺はマジック様に膝枕をしてもらっている形らしい。

「本当にマジック様なんだぁ」

と、いまだに寝惚けた頭で呟いた。でもどうしてこんな所に?あ、もしかしてこれ夢か?
でもそれにしてはリアル過ぎるし・・・。
瞼はまだ重たく、油断していると閉じてしまいそうになる。
眠気覚ましと、夢であるかどうかの確認の為。俺は手を自分の頬へと持って行けば、そのまま肉を摘まんで力を入れた。

痛い。
と、言う事は夢じゃない?

痛みに少し目も覚めた。身体を起こしてソファの背凭れに深く身体を預け、軽く目を閉じれば首を左右に緩く振った。
気休めではあるが、少しは眠気も飛んだように思う。
未だに現実味を帯びていない頭のまま、隣の人を確認するように恐る恐る振り向いた。

「ジャン、大丈夫かい?」

ほ、本物だ!
何故か大仰に驚いている俺の姿を見て、マジック様が心配そうに声を掛けて来た。
寝不足で怪行動を取っている、と思われているんだろう。
まぁ、あながち間違いでもないわけだけど。
目の前の状況に回らない頭では対応が利かず、一人で何故やらアタフタしていると、大きな手が伸びて来て俺の頭の上にポンと置かれた。
俺はそれが合図になったかのように、ピタリと動きを止めて大人しくなる。

「ソファで寝ても疲れが取れないんじゃないのかい。駄目だよ、身体はちゃんと休めないと」
「はぁ、すいません・・・」

いきなり注意を受けてしまった。
久しぶりに逢えて驚きつつも嬉しかったのに、ちょっと淋しい気持ちに見舞われる俺。
そんな事を考えながらしょぼくれてしまった俺だったが、マジック様の腕がいつの間にか後頭部に移動していて。そのまま相手の方へと引っ張られた。寝起きでまだ頭がぼんやりしている俺は、突然の事に咄嗟に対応が出来ず。重力に引かれるように、相手の胸へと倒れこむ。一瞬の出来事だったから、自分が置かれた状況も解らず、目を泳がせていると。ぎゅっと強く抱き締められた。そうして、やっと俺は自分がマジック様の腕の中に居る事に気が付いた。
抱き締められたまま動けずにいると、耳元に顔が近付いて来て、低く、優しく囁かれる。

「逢いたかったよ」

耳元でその声で言うのは反則だ。
俺は不意打ちをくらってしまう。久し振りだったし、嬉しいし、恥ずかしいし、何だかくすぐったくて。
それだけで、顔が急速に熱を帯びるのが解った。それを意識してしまえばしまう程、熱は増して行くし、耳まで熱いし。もうどうしたいいんだか。
でもやっぱり嬉しさが勝っていて、胸に抱き込まれたまま「俺も」と返事を返せば、また、一度強く抱き締められた。
取りあえず真っ赤になってしまっている顔を見られるのはかっこ悪いので、マジック様の肩口に顔を埋めて隠してみる。
でも抱き締めていた身体を少し離されて、俺は顔を覗きこまれてしまった。

「キスをしてもいいかい・・・?」

そんな返事のしにくい質問しないで下さい。と、思ったが口には出さず。
ぎゅっと目を固く閉じて、頷いた。途端、唇に柔らかい感触が触れる。軽く触れるだけで、ちゅ、と微かに湿った音を残してそれは離れて行った。
恐る恐る目を開いてみれば、眼前には、何だかとても嬉しそうな顔のマジック様。時々見せるその表情が、時々だけどとても子供っぽく見える。なんて言ったら怒られるだろうか。

「参ったな」

俺がそんな事をぼんやりと考えていると、マジック様が小さく呟いた。
その言葉に首を傾げて相手を見遣る。

「どうしたんです?」
「キスだけにしておこうと思ったのだがね」

言いながらマジック様の手が俺の腰に廻される。

「ま、マジック様?」
「抑えが利かなくなってきてしまった」
「え?」

と、疑問を投げかけている間に、俺は抱え上げられて肩へと担がれてしまっていた。
馬鹿力!!
歳を感じさせない豪快な行動に、俺は思わず心の中で叫んでいたのだった。





運ばれたのは、隣の部屋に設置されている仮眠用の簡易ベッド。
マジック様の肩に担がれた俺は、慌てる事すら忘れていて、あっさりとベッドへと横たえられてしまった。
仰向けにされた俺の顔の左右に手が置かれ、ベッドのスプリングが大きな男二人分の体重を抱えてギシリと重たそうな音を立てて軋む。
そんな事も気にせず、金の毛色を持つ元覇者は俺の上に覆い被さるような姿勢で俺を見下ろしていた。
その視線は、執務中には絶対に見られないような優しい眼差し。

こうやってまともに向き合ったのは一体どれ位振りだろうか。
マジック様の顔が近付いて来て、額に優しく口付けを落とされた。次いで瞼、鼻先、頬へと下り、そのまま首元を軽く吸われる。
久し振りすぎる行為に、それだけで身体が小さく跳ねた。
その事が恥ずかしくて、耐えるように目を固く閉じる。
未だに首筋を吸われたり軽く舐められたりしながら、小さく震えている間に。マジック様は器用に、片手だけで俺の白衣のボタンを全て外し、下に着ていたくたびれたTシャツをたくし上げられてしまっていた。胸元はひんやりした外気に晒されて、少し寒かった。
首元で遊んでいた唇は、今度は露にされた胸元へと下りて来た。冷たい空気に晒されて、既に固くなってしまっている胸の突起を相手の口内に含まれた。温かさと絡み付くように這う舌で遊ばれたかと思えば、時々吸い上げられて腰に痺れが走るのが解った。

「あっ、や・・・!」

思わず声が上がる。こういう時の自分の声は、まるで別人のもののように聞こえる。
甲高く上げてしまった声に恥ずかしくなり、俺は両手を顔前で交差させて顔を隠した。
今まで何度も身体を重ねて来た筈なのに、初めての時のように緊張し、恥ずかしさを感じる自分が居た。
逢えなかった時間がそうさせてしまったのだろうか?
左右の突起を弄られ、声を抑えるように必死だった。舌唇を噛んでみるが、それでも声は出てしまう。
今度は下肢に手が伸びて来る。履いていたジーンズ事、一番敏感な部分を一度撫でられ、そして前を寛げさせられて、そのまま手が下着の中へと侵入して来た。

「ひゃっ!」

思わず上げた声は色気の「い」の字もないような声だった。
俺が声を上げた後に、マジック様が小さく笑っている声が聞こえて。更に恥ずかしくなる。

「笑わないで下さい!」
「可愛かったからつい、すまないね」
「可愛くないです・・・」

腕はまだ交差して顔は隠したまま、俺は悔し紛れに小さく反論を呟いた。
マジック様は未だにクスクスと笑みを漏らしながらも、ジーンズを下着ごと脱がし、俺の自身を手で優しく包み込むと、ゆっくりと上下に動かし始めた。

「ん、ぅ・・・」
「可愛いよ、ジャン・・・」

耳元に顔が近付いて熱っぽく囁かれる。それだけで腰が震えてしまって、顔を隠している腕を少しずらし、困ったようにマジック様を見上げてしまった。
額にキスを落とされ、下肢に伸ばされている手は、俺の性感帯を熟知しているように動くから。腰は震え、律儀に反応を返してしまう。
自身からは先走りが零れ出て、手を上下される度に微かに水音が部屋へと響いた。それが更に羞恥心を煽り、目の前にあるマジック様の顔を見る事が出来なくたって、目を幾度が泳がせた後にまた固く閉じてしまったのだった。そんな俺の仕草を見て、またマジック様が笑ったような気がしたけれど、絶頂が近付き、そんな事を気にしている余裕も無くなってしまっていた。

「も、駄目ですっ・・・あぁ!」

限界になった俺は強く背を反らせ、顔は腕で隠したまま、マジック様の手に登り詰められてあっけなく熱を放ってしまった。

「は、ぁ・・・」

余韻にビクビクと小さく身体を震わせ、恥ずかしさに先程より更に顔が熱くなるのが解った。
今は相手の顔を見る事なんて出来そうにない。
しかし手は俺の心情なんて知ってか知らずか、白濁の液体を指に絡ませれば双丘の間へと侵入して来た。まだ固いままの蕾の周りを、解すように何度か指の腹で撫でてから、ゆっくりと内部へと侵入を開始する。
久々の感触に、俺は反射的に目を見開いて声を上げた。

「あっ、や・・・ぁ・・・!」
「嫌、かい?」

頬にキスされて囁かれる言葉に、緩く頭を振った。マジック様は時々意地が悪い。
俺の頭を振る姿を確認したように、押し込まれた指がゆっくりと引かれ、また奥へと押し込まれる。
何度もそうして、慣れて来た頃には指が二本に増やされていた。二本の指にも慣れると、指を引き抜かれた。
そして代わりに、相手の熱くなった自身を入り口へと宛がわれる。

「あっ」
「ジャン、久し振りで辛いかもしれないけど。ちゃんと力を抜くんだよ・・・」
「はい・・・」

言われた言葉に素直に頷いた俺の心臓の鼓動は、壊れてしまいそうな位に早鐘を打っていた。
狭い入り口を押し開くように、固く、大きな物が俺の内へと侵入してくる。
何度身体を重ねたって、もともとそこはそういう行為の為に出来ている物では無いのだ。痛みに眉を寄せ、上から俺を抱き締めてくれているマジック様の背に腕を廻し、自分から強く抱き付いた。
やっぱり、痛いものは痛い。
力を抜けを言われたけど、痛みに耐えるようにしてしまうと力が入ってしまっていて、おまけに息まで詰めてしまう始末。
マジック様は苦しげな様子の俺を、少し困ったように見下ろしている。

「ぅあ・・・」
「大丈夫かい?やはり止めておこうか」
「や、大丈夫・・・だから・・・」

俺から身を起こそうとした相手に気付き、俺は慌てたようにしがみ付いてしまった。
痛いけど、辛いけど、離れて欲しくなかったから。「行かないで下さい」なんて言葉を、無意識に零れ出していた。
マジック様は俺の言葉を聞けば、背に腕を廻して優しく抱き締めてくれた。それだけで、少し身体から力が抜けて、緊張が解れるのが解った。
それをマジック様は見逃さなかったようだ、一瞬身体から力が抜けた瞬間、自身が奥へと押し込まれた。
俺は驚いて、微かな痛みになったそれと快楽に小さく身を捩った。

「まじっく・・・さま・・・」
「ジャン、動くよ」

言われて、腰を引かれてまた奥へと入れられる。
最初はゆっくりだったそれも、徐々に速さが増して来た。
微かに残っていた痛みを伴いながら、それよりも強い快感に支配されたように、俺の口からは切れ切れの息と、矯正しか出て来なくなっていた。

「あ、あぁっ!」

目元には生理的に浮かんだ涙が頬を伝う、それに気付いたマジック様に涙を舌で掬い取るように舐め取られる。
俺はもう必死に相手の背に廻した腕を震えさせながらしがみ付き、身を捩らせて喘ぎと涙を零す。
何度も腰を打ちつけられれば、眼前に火花が散ったように頭がチカチカしている。

「あっ・・・もぅ・・・!」
「ジャンっ!」

俺が限界が近い事を訴えれば、マジック様も同じだったようだ。
腰の動きが強く、早くなり、それにつられるように俺も登りつめて。二度目の限界に達した。
俺が達したすぐ後に、マジック様も中で果てたようで、ドクリと脈打つ感覚と熱を感じながら。俺の頭は真っ白になって、意識を手放してしまった。




「ん・・・」

目を覚ますと、部屋の中は真っ暗だった。
あれから何時間眠っていたのだろうか、という疑問と共に、マジック様は?と思って、身を起こそうとしたら。何かにがっちり身体が固められているのが解った。
マジック様の腕だった。
俺はまだ傍に居てくれた事にホッとして、眠っている相手の胸元へと擦り寄った。
マジック様が部屋に現れて、先程までしていた事を頭の中で思い返すと、一人で顔を赤くする。

そういえば、どうしてここに来ていたんだろうか?

突然の訪問だったし、寝ていたからまともな対応も出来なかった事を悔やむ。
そしてマジック様が来る前に、部屋から出て行った旧友からの言葉を思い出す。

『気が向いたら差し入れでも送りますよ』

あれって、もしかしてマジック様の事か?
考えながら、下からマジック様の寝顔を覗きこんだ。何だか幸せそうな寝顔。

高松も、良いとこあんじゃん。

寝顔を見ながら俺は一人で微笑んだ。
貴方の傍に居られる事がこんなに嬉しいなんて。
狭い簡易ベッドから落ちないように、相手に身体を密着させて目を閉じる。

「これからもずっと、傍に居させて下さい。大好きです・・・」

眠っている相手に囁き掛けて、唇に触れるだけの口付けを落とした。

貴方が年老いて死んでしまうまで、ずっとずっと、一緒に居られますように。
誰にともなく願いを込めて、幸せに涙が零れそうになりながら、傍で眠りについた。

貴方の体温を感じたまま、傍に居られる喜びに包まれながら。











何か長くなってしまいました。
Hはまったく満足のいく仕上がりじゃないです。Hシーンとか書くの下手だ私・・・。
最近ジャンの乙女化進行が進んで来てます。ごめんなさい(土下座)