白の世界

一面真っ白の世界。寒くて、吐く息すらも真っ白だ。
あの島ではまず無い光景だったし、これを見れたのは25年振りだったしで俺は興奮してた。

「わーっ!凄い、積もりましたね!」
「そうだね、真っ白だ。ご覧、この辺りはまだ誰の足跡も付いていないよ」

俺の居る先をマジック様が指を指す。
そこは本当に、まだ何にも汚されていない白の世界だった。
俺は思わず行くのを躊躇ってしまう。

「ジャン?」

マジック様はきっと俺が足跡を付けに行くと思っていたのだろう、急に立ち止まってしまった俺の背後へ近付けば肩に手を置かれた。
俺は首だけを振り返らせて相手を見上げる。

「どうしたんだい、一番に跡を付けると思っていたのに」
「何だか、俺が一番に付けない方が良い気がして」
「どうしてそう思うんだい」
「俺は綺麗じゃないから、でしょうか。どうしてか、俺が汚してはいけない気がするんです」

言い終わると、肩に置かれたマジック様の腕に力が入ったのが解った。
それに気付いて問いかけようと口を開いたのだけど、俺が声を発するよりも早く、身体を反転させられて真正面からマジック様に抱き締められてしまった。

「綺麗だよ」
「え?」
「君はとても綺麗だ。純粋で、無邪気で、時々とても儚げで心配にもなる・・・君は自分が思うより人に慕われてもいるんだけど。だから、もう少し危機感も持って欲しいのだがね」
「そんな事、ないですよ。マジック様の方が綺麗だと思いますけど」

雲の切れ間から陽の光が覗き、俺達の上に光が注ぐ。
マジック様の髪が光に反射して眩しく、俺は思わず目を細めた。

「綺麗だなんてとんでもない。私は、色んな泥を飲んで来たよ。でもねジャン、君はあの頃と何も変わらない。これからもきっと変わらないだろうね」

頬に手を添えられる、それはとても暖かくて気持ちが良い。
マジック様の顔が近付いて来る。

「ま、マジック様外ですよ」
「誰も居ないよ」

唇が触れ合う。冷たく、かさついていた唇がそれだけで潤ったように思うのはきっと錯覚だ。
遠慮がちに首に腕を廻せば、抱き締めてくる腕に力が増し、更に深く口付けられる。

「ふ・・ぅ・・・」

長く口付けられ、少し息苦しくなって口を開けば吐息が漏れた。
それがマジック様の耳にも届いたようだ、更に執拗に舌を絡められて弄ばれてしまった。

「は、も・・・んっ」

このままでは腰が砕けて歩けなくなってしまう。
俺は講義の意を込めて相手の背を軽く叩く、そうするとようやく顔が離れ開放してくれた。

「ああ、調子に乗りすぎたね。大丈夫かい?」
「はぁ・・・相変わらず歳を感じさせませんね」
「私は、出来れば死ぬまで現役で居たいと思ってるよ」
「死ぬなんて、言わないで下さい」

忘れていた時間差を思い知らされそうになる。

「もっともっと、俺と一緒に居て下さい」
「ジャン・・・」

背に腕を廻して胸に顔を埋めれば、それを合図にしたように頭を抱き込まれた。
こうしていると幸せな筈なのに、酷く泣き出したい気分だ。
どうしてだろう、こんなに近くに居るのに。

「ジャン、愛しているよ」
「俺もです。マジック様・・・愛しています」

ずっと傍に居たい。
いつかは別れる時が来る事なんて今は考える事も出来ないし、考えたくもない。

今の俺の全てはこの人だ。

雪に囲まれたまま、抱き締め合い、俺は一粒だけ涙を零した。













マジジャン。
ちょっと切なめ・・・みたいな。
思いつた事をバババーっと書いてみたら何だかちょっと暗いお話になってしまいまった一品です。