Christmas

「クリスマスって何ですか?」

君があまりに純粋に問い掛けてくるものだから、驚きが顔に出てしまっていたようだった。
まさかクリスマスを知らない者が居るとは思ってもいなかったものだから。



「俺・・・そんなにおかしな質問しましたか・・・?」

私がどう答えようかと悩んでいると、向かいのソファに座っていたジャンから何とも情け無い声が聞こえて来た。
それが何だか可笑しくて、ついつい笑ってしまいそうになるのを喉元で何とか押し留める。

「ああ、大丈夫だよ。変な質問じゃないけど、珍しいと思ってね。これだけ世界に知れ渡っているイベント事も無いものだからね」
「そうなんですか、そんなに有名な行事なんですか」

今度は「へー」と、感嘆とした声を上げる。
子供のような純粋な反応にこちらの顔も自然と綻ぶ。

18年、彼が暮らして来た場所はこことは懸け離れた場所にある南国の島。
彼の質問の内容から考えるに、そこには「クリスマス」という行事は存在しなかったようだ。
彼はここに来て初めての体験なのだろう。
祭り事が嫌いじゃない私の私室にはツリーも飾り付けて置いてあるし、部屋の暖炉にはアクセントにと、小さな靴下を吊るしていた。
ジャンはソファから立ち上がると、ツリーの周りをぐるりと廻って装飾を眺めたり、小さな靴下に「可愛い」なんて笑顔を零している。

「クリスマスというのはね、簡単に言ってしまえば、世界的に有名な人の誕生日なんだよ」
「誕生日ですか、それを皆で一斉にお祝いしてるんですね」
「そうだね、特別な日だからね」
「良いですね、沢山の人に祝われて。その人も嬉しいでしょうね」

ジャンが何気なく言った一言に目から鱗が落ちた思いだった。

「クリスマスをそんな風に考えた事なんて無かったよ。ただのイベントとしてしか見ていなかったからね」

私はソファから立ち上がり暖炉で靴下を眺めていたジャンに近付き背後から抱き締める。
暖炉の火に照らされていたジャンの身体はとても暖かい。
ぬくもりを分け与えてもらうように腰に手を廻して肩口に顔を埋める。

彼の身体からは陽の匂いがするように思う。
ジャンが顔だけを振り返らせる。

「今日は特別な日なんですね」
「そうだよ」
「・・・俺と一緒に過ごして良かったんですか?」

遠慮がちな問い掛け、その内容に次は笑いを耐える事が出来なかった。
小さく肩を震わせて笑ってしまい、肩口から顔を上げてジャンを見れば、少し頬を膨らませていてまた笑ってしまう。

「どうして笑うんですか、こっちは真剣なんですよ」
「すまない、可愛い質問をすると思ってね」
「可愛い質問なんてしたつもり無いんですけど」
「拗ねるんじゃないよ」
「拗ねてなんか・・・」
「ジャン、そんな心配しなくて良いんだよ。私は君と一緒に居たいからここに呼んだんだよ」
「本当ですか・・・?」
「信じてくれないのかい?」

問い掛ければジャンは顔を正面に戻し下を向いてしまった。

「ジャン?」
「・・・信じます」

そうして呟いた君の顔は見えないけれど、髪の合間から覗く耳は真っ赤に染まっている。
そんな仕草一つに心動かされてしまう。

「ジャン、今日は君の時間を私にくれないかい」

耳元で囁けば、更に耳を赤くして小さく頷いてくれた。

ジャンを腕に抱いたまま、光を多く取り込むようにと大きく作った窓の外に白い雪が見えた。

「雪だよ、ジャン見てご覧」
「わぁ、本当だ。綺麗ですね・・・」

純粋な声、振り返った君の顔には満面の笑顔。
私の顔にも笑顔が零れる。




君のその笑顔を見ているだけでとても幸せだよ。
来年も再来年もその先も、君とこうしてクリスマスを過ごせる事を願うよ。














マジジャン。
タイトルはシンプルに!(思いつかなかったとも言う)
誕生日をすっ飛ばしてしまったのでクリスマスです。LOVELOVE目指しました。