ぬくもり

久し振りすぎて困る。
今更ながら、どんな顔をしていいのか解らない。





団に帰って来てから3日が経っていた。
この広い団内での親しい人物への挨拶もあらかた終わったし、元総帥からの配慮で個室や研究室まで戴いた。
帰って来て早々の優遇に「いいのかな?」とも思いつつ、宛がわれた部屋に既に置かれていたベッドに腰を掛けて窓の外へと視線を投げた。
外は雲ひとつ無い青空。「快晴」とはまさにこの事だろう、というような気持ちの良い陽気に誘われるように、ちょっと外へ出てみようかと思った時だった。
部屋の扉が軽くノックされ、俺はそちらに振り返る。

「開いてるよ」

出入り口に隔てられている扉に向かって声を投げる。
すると、少し間があってから扉が静かに開かれた。
そしてその先に居たのは、長い黒髪を持つ旧友、高松が立っていた。

高松は部屋に入ると静かに扉を閉めてからこちらを振り返り、俺の方へと歩き出して口を開く。

「団内での挨拶は済んだんですか?」
「うん、まぁ、大体は。後は追々やってくさ」

俺が座っているベッドへ近付いて来ると隣りに佇み、手を伸ばしてきて俺の頭へとそれが置かれる。
髪を梳かれてから優しく頭を撫でられる。
これは高松の昔からの癖のようなものだった。他の人には決してしないのだが、何故か俺に対してだけこうして触れてくる。
側から見れば、まるで子供扱いをされているかのような光景なのだけど、俺は高松にこうされるのが何より好きだった。

高松の手が頭に触れる。
その手は優しくて、決して高くは無い体温が気持ち良い、そして何より久し振りの感触に俺は何だかくすぐったさを感じてしまう。
高松は頭を何度か撫でてから俺の隣りに腰を下ろした。
そして頭に廻っていた手が今度は頬に降りてくる。
それに気付いて高松を見遣れば、いつの間にか相手の顔が目の前にあって、俺は驚いて慌てて目を閉じた。

唇に温かく、柔らかいものが触れる。
幾度か啄まれ、唇を相手の舌がなぞっていく。

「っ・・・たか、ん、う・・・」

早急な動きに焦ってしまい、名前を呼ぼうと口を開けば、それを待っていたかのように舌を差し込まれた。
後頭部にはいつの間にか相手の手が廻り込んでいて、がっちりと固定されている。
俺はキス一つで息も絶え絶えになり、酸欠でぼんやりとした頭で、いつの間にかベッドに押し倒された事を知った。

「たか、まつ・・・なに・・・」
「あんたね、3日も私の事放っておいたって自覚あります?」
「べつに、放ってなんか・・・」
「そういう所、変わりませんね」

高松は苦笑を零し、また俺の頭を撫でた。
俺は放っておいたとは思って無いんだけど、高松の所に行けなかった(挨拶まわりとかで忙しかった)のだからやっぱり放っておいた事になるのだろうか。

「・・・ごめん」

何だか逢いに行けなかった事に急に罪悪感が湧いて俺は謝罪した。
すると高松はまた小さく苦笑を漏らしてから額に口付けを落として来た。

「忙しかった事は知っていますよ。意地悪を言ってすいませんね」

相手の言葉に今度は俺が困ってしまって、それを誤魔化すように背に腕を廻して力を込める。

「3日分、取り戻させてもらいますよ」

高松はまたちょっと意地悪く言って笑って、そのまま俺の上へと覆い被さって来た。







目を覚ました時には、あんなに太陽が眩しかった空に、今度は煌々と月が照らされていた。
窓の外に大きく映る月を寝起きの頭でぼんやり眺めてから、ふと隣を見れば、高松が眠っていた。
俺を抱きこむようにしている為に顔が目の前にあって、俺は驚いてから「わっ」と小さく声を上げ、身動ぎをすれば腰に痛みが走る。
久しく覚えるその痛みに、先程までの情事を思い出し、今度は耳まで赤くなってしまった。

高松が寝てて良かった・・・。

ほっ、と安堵の息を漏らしてから胸を撫で下ろす。

高松の体温、温もり、触れる肌、手の動き、囁かれた言葉。
全てが久し振り過ぎて、俺は相手の下で戸惑うばかりだった。
高松はそんな俺に小さく笑って「大丈夫」だと言ってくれた。

先程までの事を思い出すと恥ずかしくてたまらない。
俺は寝ている相手の顔を見る事すら恥ずかしくなって躊躇われ、胸元に顔を埋めてしまった。

「うわ、もう・・・どんな顔したらいいんだか」

嬉しさと恥ずかしさがせめぎ合っていて、今のままではどうする事も出来そうにない。

「もう一回寝よう」

相手に寄り添い目を閉じる。
胸元に頭を預けている為、相手の心音が聞こえてきて、それがまるで子守唄のように心地良く聞こえ、すぐに眠気が襲ってくる。

「次に目が覚めた時には大丈夫、きっと」

赤面しないで話せる、きっと、大丈夫。

まるで自己暗示にでも掛ける様に呟いてからだんだん強くなる眠気に引っ張られように、俺はゆっくりと眠りの淵へと落ちて行ったのだった。

相手の体温を感じ、心底安心しながら。










高ジャンでっす。
H省きましたが!(へたれ)ちょっと強引な高松と恥ずかしがるジャンです。
書いてる本人は楽しかったです。わはは。