月の消える夜

身体を重ね合わせる、この行為に何の意味があるのだろうか。


否、重ね合わせるという言葉はこの行為には不釣り合いだ。俺はこの人に組み敷かれ、ただ身体を貫かれているだけに過ぎない。
毎日毎夜、あの人は俺の身体を支配して、力の加減も無くただ性欲を発散させる。





「いて・・・」

身体に走る痛みに目が覚める。
至る個所が軋み、身体中が悲鳴を上げているようだ。寝返りすらも辛くて、首だけを動かして大きく取られている窓の外を眺める。
今日は訓練中はとても良い天気だった。
だから外を見れば月が奇麗に瞬いていると思っていたのに、そこには月の姿が見当たらない。
いつもはこの窓を仰げば月が見えるのに、今日は見えない。
曇っているんだろうかと思ったけれど、そういう様子も見られない。

痛む身体を無理やり起こして隣に居ると思った相手を見たが、そこは蛻のからだった。何処に行ってしまったんだろうかと思いながら、裸の身体にシーツを羽織り、大窓に向って歩き出す。

窓までは大した距離じゃない、けれど内部から伝わる痛みは意外に強く、歩くだけでも身体に負担が掛かる。

これじゃ明日の訓練や授業はボロボロだろうな、なんて他人事のように思いながら窓の前に立った。

「星は見えるのに・・・」

負担を軽減させようと窓に手を付いてから外を窺い見る。
やはり何度見上げても月の光は見えなかった。
どうした事だろうと思っていると、突然肩に手を置かれ、俺は大袈裟に驚いてしまった。
思わず肩を少し跳ね、窓に手を付いたまま慌てて振り返れば、そこにはマジック様が立っていて、「どうしたんだい?」と声を掛けられた。
俺は相手の顔をまともに見れず、また窓の外へと身体ごと向いて口を開いた。

「え、あ、いや・・・ちょっと夜空を見てたんですけど、月が無いから不思議に思って・・・」

先程の行為の後の所為か、自然と緊張してしまう。
情事の後はいつもこうだ、マジック様の顔が真っ直ぐに見れなくなり、上手く喋る事も出来なくなる。
俺の言葉を聞いたマジック様も後ろで窓の外を眺めているのか「ああ」と声を出してから俺の隣に並んで立った。

「今日は新月だからね、丁度月が見えない時間が重なったんだろう。だから見えないんだよ」
「新月・・・ですか。なるほど」

俺は相手の言葉に肩を落とした。

折角月の光を見ようと思っていたのに。
あの光を見ればどんなに沈んだ心だって、嫌なことだって忘れる事が出来る、だから見る事が叶わず、俺は無意識のうちに項垂れてしまっていた。
その俺の頭に手が置かれたのに気付き、顔を擡げれば目の前にマジック様の顔があって、軽く口付けられた。

その口付けは優しく、触れた場所は温かい。
それが俺の心を揺れ動かす。動揺してしまう。
俺はこの人に愛されている訳じゃないのに、ただ身体を繋げているだけの関係なのに、惑わされてしまいそうになる。

どうして優しくするんだろう。

すべて冷たければいいのに。
触れた指も肌も・・・全部全部、温かさなんてなければいいのに。

これ以上俺を惑わせないで欲しい。
あなたは俺を愛してなんていないって分かっているから、優しくなんてしないで欲しい。

分かってるんだったら自分がしっかりすればいいだけなんだけれど。
俺は強くないから。
つい、温もりを求めてしまう。
無駄なのだと分かっているのに。

それでも、もし少しでも俺の事を想ってくれたら。

月の無い夜、叶わない願いをまた胸に抱え、俺は相手の背中へと縋るように腕を回した。










マジジャンです。
病んだ話で申し訳ないです。でも書きたかったんだYO!