手を伸ばせば

夢を見た。
目の前にはジャンが居て、いつもの笑顔で私の事を見つめている。
手を伸ばせば触れる距離だったから、私は迷う事無く彼に触れる。
頬に手を置けばまるで犬か猫のように、掌に頬を擦り寄せて来る姿に、嬉しさが込み上げて自然と笑顔が零れてしまう。

こんなに近くに居るなんて、ジャンにこんなに簡単に触れる事が出来るなんて。
私は信じられず相手の存在を確かめるように、触れていない方の手も伸ばして頬を両手で包み込んだ。
ジャンはそんな私の行動を不思議そうに見つめている。

触れた頬は温かい。
指先からはじんと痺れるような心地の良い熱が伝わって来る。
ただこの瞬間が幸せだった。
この時間が、永遠に続けばいいと思った。



いつもと同じ時間に目覚ましが鳴った。
その音に、夢の舞台から引き摺り下ろされて目を覚ます。
自分は低血圧などでは無く、いつも目覚めは良い。
目が覚めればいつも朝の光に清々しい気分で目覚めているのだが、今日は折角の夢見だったのに邪魔されてしまい。寝起きは少々不機嫌。

「・・・やっと手が届いたと思ったら」

夢の中で、だった。
はあぁ、と大袈裟な溜息が洩れる。

いつからだろう。
いつの間にか、彼から視線を外せなくなってしまっていた。
好きになってしまっていた。
だけれどこの気持ちはどうする事も出来ない。

「言える筈もありませんし」

当然の事だった。しょうがない事だ、ジャンが好きな人は別に居る。
青の一族の末弟であるサービス。
ジャンはサービスの事が好きで、サービスもジャンの事が好きなのだ。
二人は部屋も同室で、気付けば自分が間に入れる余地なんてこれっぽっちも残されていなかった。

近いのに遠い、届きそうで届かない距離。

寝起きで考える事じゃなかった。
いらない体力を朝から使ってしまい、今日一日のやる気を自分で削ぐ結果になってしまった。

「たまにはサボってのんびり昼寝でもしましょうか・・・」

考えから逃れるように再び布団の中へと潜り込んだ。
目を閉じれば、先程の夢の続きが見られるだろうか?

掌を天井に翳して眺める。
いつか、冗談でも彼の肌に触れられる日は来るだろうか。
優しく、そっと頬を撫でる日は来ないだろうか。

「一度でいいんですけどね」

誰に言うでも無く呟いて、翳した掌を暫くの間じっと眺めていた。










高→ジャン。
高松の想いというか独白ですね。