お昼寝

今日はとても気持ちの良い陽気だった。日差しはポカポカと身体中を心地の良い温度で照らしてくれる。
外の温度以上にポカポカと暖かい場所がある。それがこの温室である。
ここには南国にしか生息しない花々の楽園を再現しているかのような場所だった。
この温室の一角には古びたベンチがあり、そこにはくたくたに疲れている白衣を身に纏った漆黒の髪の少年が横になって眠りこけているのであった。
そしてその少年の寝顔を懐かしげに眺める金の髪の男が一人。
外の陽気と相まって、この温室は今は少し暑い位だったが、南国育ちの彼には丁度良いらしい。ベンチの横に人が立っている事にも気づく事無くすやすやと安らかな寝息を零している。

(昔に比べて随分と警戒心が無くなったものだ)

金の髪の元覇者マジックは、寝入っている漆黒の髪の元赤の番人ジャンの寝顔をマジマジと眺めていた。
あの頃となんら変わりの無い彼の姿に、何処か安堵を浮かべながらジャンが起きないように静かにそっとベンチへと腰を下ろした。
マジックは手を伸ばし、そっと彼の黒髪へと手を差し込んで優しく梳いた。
ジャンは、「ん・・・」と小さく声を漏らしたが起きる気配は無い。
余程疲れているのだろうか?と少々心配になる。
起きない彼の頭を何度も撫でていると次々と昔の事が思い出されるようであった。
ジャンだけが、時間が止まったようにあの頃と変わらないのだが。

「サービスの為だろうけど、よく戻って来てくれたね。嬉しいよ」

マジックはそう小さく呟いてからジャンの頬に軽く口付けを落とした。すると、その拍子にジャンが薄く目を開いた。
ぼんやりとした視界のまま隣に座っている自分を見下ろしている相手に気付けば目を擦り、存在を確認するかのように何度も瞬きを繰り返している。

「マジック総帥・・・?」
「もう、私は総帥ではないよ」

寝惚けたように呟いたジャンの姿にマジックは笑いを零して身を起こした彼の頭をもう一度優しく撫でた。
ジャンはその大きな手に撫でられて、気持ち良さそうに軽く目を伏せる。

「マジック・・・様はどうしてここに?」
「何となくだよ、ここに来れば君が居る気がしたんだけど。私の勘もまだまだ鈍ってはいないようだね」

マジックは笑い、ジャンも嬉しそうに笑った。
ジャンはマジックの傍へと寄ると、そのまま相手の肩に頭を寄りかからせて顔を見上げてくる。

「マジック様もどうですか?昼寝、ご隠居なさってから暇でしょう?」
「そうだね、たまにはいいかもしれないね」

では、早速と言わんばかりにジャンはマジックの肩口に頭を預けたまま目を閉じた。
マジックも、ジャンの肩へと手を廻して引き寄せると相手に少し寄りかかるようにしてから目を閉じた。

ここは彼の楽園とは違うけど、きっと良い夢が見れるに違いない。
だから彼に付き合ってほんの少しだけ。







web拍手御礼のマジジャンSS。
総帥引退したマジックパパは毎日何をやって過ごしているのだろうな〜。