その日俺は珍しく朝から体調が優れなかった。人と違う俺の身体でも一応風邪とかは引くみたいだ。このままほっといたってすぐに治るだろうけれど、一応薬を貰っておくかと高松の研究室へと訪れたのであった。
高松に事情を話すと「馬鹿でも風邪を引くことがあるんですね」と言われたがそれは聞こえないフリをした。取り敢えず風邪薬をくれと言えば、何とも怪しげな紅い瓶から錠剤を二つを取り出され手渡された。俺はその薬を疑いもせずにその場で水を貰いその薬を胃袋へと流し込んだ。
そして仕事をして帰って一晩経ったわけなのだが・・・・・・。
朝起きると目覚めは良かった。きっと高松のあの怪しげな薬はちゃんとした風邪薬だったんだろうとほっと胸を撫で下ろした。
そしてその撫で下ろした胸元に、なんともしれない違和感を感じる。自分の身体なのに自分の身体じゃないような。
何か・・・柔らかい・・・?
寝惚けた俺はぼんやりしながら数度自分の胸元に軽く手を置いた。
何か膨らみがある・・・・。
だんだんと眠気も覚めて頭も覚醒してきたが、それでも自分の今置かれている状況はまったくといっていい程解らない事尽くしだった。
俺の今の格好は、ストライプ柄のパジャマ上下を着ているのだけれど、何だか何時もよりでかい気もする。自分の体型にぴったりな物を買った筈なのに、今日は袖が余っていて手も出ていない。
おかしい、明らかにおかしい・・・。
自分の身体に不安ばかりが募り始める。取り敢えずベッドから起き出してみる。顔を洗おう・・・そして鏡を見ればいつもの俺がそこには写る筈なのだから。
不安に負けないようにドシドシとわざと大きく足音をあげながら歩き自室に備え付けられている洗面所へと向かった。
まずは鏡を見ずに真っ先に顔を洗う、手探りで洗面台に置いてあるタオルを手に取り、顔の水滴を全部綺麗に拭い去ってから、俺は恐る恐る顔を上げて鏡を見た。
そこに写って居たのは自分じゃなかった。
いつもある高さよりも低い位置にある頭、少し丸みを帯びた顔、華奢な身体には大きすぎるパジャマ、そしてその胸には膨らみがあるのだ。
俺はザっと蒼褪める、同時に鏡に写っている女の子の顔も蒼褪めていた。
何て悪夢だ・・・・。
次の瞬間には俺は自室を飛び出していた。
俺は走った、長い長い廊下をただひたすらに走った。
へとへとに疲れきった頃に、やっと悪の根源の場所へと辿り着いた。相手はまだ寝ているかもしれないが(只今早朝5時である)そんな事を気にしている暇すら俺には無いのだ。
乱れた呼吸を整え、そして高松の自室の扉を壊れんばかりに蹴飛ばした。つもりだったのだが、女になっている所為か力が落ちているようだ、蹴飛ばした扉はビクともせず、ただ俺の脚に痛みを伴わせただけであった。それでも多少は効果はあったようだ、鳴り響いた音に気付いた部屋の主が部屋の扉を開いたのだ。
扉の向こうから姿を現した相手に俺は速攻殴りかかっていたのだった。
「いきなり何するんですか」
高松はむっつりとした表情でソファに座っている。その顔にも身体にも何処にも殴られた痕は無い。
それもその筈、勢い良く殴りかかったはいいものの、俺の鉄拳はものの見事にかわされて。その拍子に俺の方がすっ転んでしまっていた。
「どういう事か説明してもらおうか・・・」
高松以上にむっつりとした表情のまま俺は静かに口を開いた。
「どうって見たままですよ。あんたもう少し人を疑う事をした方がいいですよ」
「如何わしい薬を盛った張本人がよくもまぁそんな事・・・」
怒りを通り越して呆れてしまう。それ以上の言葉はもう出て来なかった。
「もう身体で体感してるから解るでしょうけど、性転換の薬ですよ。ちょっと興味本位で試しに作ってみたんですけど、どうやら成功のようですね」
高松は顎に手を置いて「ふむ」と俺の頭から足先までを上出来とばかりの表情で眺めている。
冗談じゃない、どうして俺が女にならなきゃいけないんだ。
「お前自分で飲めよ!!」
「イヤですよ、私が女になったって楽しくないでしょう」
「そういう問題なのか!?」
あーもー・・・駄目だ何を言っても無駄。
俺はそのままソファに突っ伏してしまった。朝から頭が混乱する事が起こった所為か、疲れきって動けなくなってしまった。
今の自分の身体には大きすぎるパジャマが鬱陶しい、高松の部屋に来るまでに何度裾を踏んで転びそうになった事か。
俺はソファに伏せったまま口を開く。
「それで・・・この薬の効力はどれ位なんだ・・・」
「解りません」
あっさり。本当に悪びれも無くあっさりと言われた言葉に俺はまたぐったりとなってしまった。
「こんな姿サービスに見せられない・・・」
両手で顔を覆い隠して深く深く溜息を吐く。いっそ泣いてしまいたい位の気持ちだ。
そのままの姿で何度も溜息を吐いていると隣に高松が移動して来てソファに座る。
くそ、もう一回殴りかかってやろうか・・・。
「サービスは・・・喜ぶと思いますけどね・・・。随分と可愛くなってますし」
言って高松は俺の頭をぽんぽんと軽く叩いた。
慰められたように言われたが、可愛いなんて言葉を元凶から貰ってもちっとも嬉しくなんかなかった。
俺がしくしくと嘆いていると頭を数度撫でられる。
「畜生・・・馬鹿にしやがって・・・」
「してませんて。実験台にしたのは謝りますけど、本当に可愛いですよ」
「可愛いとか言うな・・・」
俺はがばりと起き上がると今度は頭を抱え込む。
「どうしよう、サービスに逢ったら俺どうしたらいいんだ・・・」
「本当に、サービスの事しか頭に無いんですねぇ・・・」
高松が何か言ったみたいだったが混乱している俺の耳には届かなかった。
俺は頭を抱え込んだまま、自分の身体には大きくなってしまったパジャマの隙間から見える胸を見てしまった。
途端恥ずかしくなってしまった俺はパジャマの胸元を握り締めて慌てふためく。
「俺・・・暫く戻れないならどうしたらいいんだ・・・今までの服じゃサイズも違いすぎるし・・・」
突然現実問題が押し寄せてくる。
「そうですね・・・あなたの体躯に合った服を買いに行きましょうか。元凶は私ですし、お付き合いしますよ」
「うう・・・行きたくない・・・外に出たくない・・・」
俺は当然こんな姿誰にも晒したくなんか無かった。
ここまでは勢いで来れたものの、今はもうこの部屋からは一歩も出たくも無かった。
そろそろ団員達も起き出して来る時間だ、この部屋から一歩踏み出しただけでたちまち幾人もの人間の目にこの姿が晒されてしまう。
俺は今にも泣き出してしまいそうだった。
「泣く事は無いでしょうが・・・」
「うるせー・・・人の身体で弄びやがって」
「その言い方誤解を招きますよ」
高松は苦笑して、手を伸ばして俺の頭を引き寄せる。おでこに柔らかい感触がして、何か解らずに俺は相手を見上げるとそこには高松の顔が至近距離であった。
その近さが恥ずかしく、おでこの感触の正体が高松からのキスである事が解ると。俺の顔に見る見るうちに熱が集まっていくのが解った。
「試作品ですからそんなに長くは効果は無い・・・と思います。それまでちゃんと面倒見てあげますから泣くのは止めて下さい」
そういつもには無い優しい言われ方をされてしまうと弱い。
俺はその言葉に顔を紅くしたまま素直に頷くと、脱力してしまいそのまま高松の肩へと頭を預ける。
コンコン
そこへ扉をノックする音が響いた。
部屋の主の返事を待たずに部屋の扉は開かれて行く。
「高松、この書類の事なんだけど・・・」
部屋に入って来たのはサービスだった。
俺は高松に凭れたまま身動きも出来ず、ただサービスの顔を見て顔を青くする事しか出来なかった。
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女体化ジャン受小説始動(ぇー)
しかも続きますよすいません・・・。