乙女2

部屋の入口で俺と高松の姿を見たまま動かないサービス。俺も身動きが取れずに硬直中。

何て最悪なタイミング。

「で、書類がどうしたんですか?」

何時もと変わらないのは高松だけだった。
サービスは口を開いた高松を見、そして隣で動けなくなっている俺を見る。
普段からそんなに感情を顔に出さないサービスは、内心は驚いているようなのだけどやっぱり顔には表れていない。
俺の姿をマジマジといった様子で上から下まで見尽くしてから口を開く。

「・・・・・・ジャン?」

名前を呼ばれた俺はというと、驚きにぽかんと口を開いた間抜けな顔になる。
凄い、何で解るんだ!?

「さ・・・サービスぅっ!」

俺は立ち上がると気付いて貰えた嬉しさのあまりサービスの胸に飛び込んでいた。
こんな姿見せられないと思っていた事なんて、頭の片隅へと飛んで行ってしまっていた。

「驚いた、本当にジャンなのか?」

俺には全然驚いてる風には見えなかったけど。俺はこくこくと何度も頷き、サービスの胸に頭を伏せて縋りついていると手が伸びてきて優しく頭を撫でられた。俺は拒絶されなかった事がただ嬉しくて、目元に涙を浮かべて更にぎゅっと細いと思っていたけどしっかりとした身体にしがみ付く。
高松はそんな俺達の様子を見て、やれやれと肩を竦めてみせる。

「私の時とは随分態度が違いますね」
「当たり前だろ、元凶のくせに」

俺は振り返ると、べっと舌を出す。
どうして俺がこんな風になった原因に優しく接する事が出来るのか。俺と高松の会話を聞いたサービスは訝しげに高松を見遣る。

「元凶?またジャンに何か盛ったのか」
「そうですね、単なる性転換の薬ですよ。試作品なのでいつ元に戻るかは解りませんが。ま、永久にこのままではないでしょうから安心して下さい」

サービスは軽く溜息を吐いた。俺も高松の言葉に深く溜息を零す。
そして俺の両肩をしっかりと掴むと俺の顔を真剣に見て。

「ジャン、お前はもう少し危機感を持たないと。何度実験台にされたら気が済むんだ」
「お、俺の所為!?」

ガーン!とコントの如く、頭の上にタライが落ちてきたかのような衝撃に見舞われる。
俺は被害者なのに!
ショックを受けている俺を尻目に今度は高松へと向き直る。

「お前もいい加減にしないか。幾らジャンが人とは違うと言ってもだな・・・」
「解りました!今回は調子に乗りすぎました。だから元に戻るまではちゃんと責任を持ってお世話しますよ」
「調子に乗っているのは毎回の事だと思うけど」

二人があーだこーだ話をしているみたいだったが既に俺の耳には届いていなかった。
どうして俺ばっかりこんな目に遭わなきゃいけないんだ・・・。体調が悪かったから風邪薬を貰いに行っただけなのに・・・こんな事態を予測出来なかった俺が悪いのか!?
がっくりと肩を下げて頭を項垂れると、サービスがそれに気付いて屈みこみ顔を覗き込まれる。間近で見るサービスの顔は、とても綺麗で俺の目にはキラキラと輝いて眩しい錯覚に見舞われる。覗き込まれた相手の顔をついじっと見つめてしまった。綺麗な金の髪に長い睫。透き通った青い目は片方しか無くて、俺の所為だと思うと心が痛む。

「ジャン、散々だったね。でも・・・」
「でも・・・?」
「小さくなって、抱き心地も良いし。凄く可愛いよ」

可愛い。先程高松に言われた時は凄く嫌だったその言葉が、今度は恥ずかしさに変わる。
俺は息が掛かりそうな位近距離で言われたその言葉に顔を真っ赤にしてしまっていた。
ヤバイ、俺サービス好き過ぎ・・・。
紅くなった顔を隠そうと更に俯いた俺はまた頭を優しく撫でられて、そのままサービスの腕の中に抱き込まれてしまった。男の時の自分とは違って今は随分と背も縮んでしまっていた為、すっぽりと腕の中に納まってしまっていた。腕の中は暖かく、コロンでも付けているのだろう。甘い良い匂いがして、俺は思わず抱擁に身を任せて相手の背へと腕を廻していた。

「お取り込みの所悪いんですけど、いちゃつくなら別の場所にしてくれません?」

背後から聞こえる不機嫌そうな声。そういえばここは高松の部屋だったと今更ながら気付く。
はっとしてから慌ててサービスから離れようとしたら、腕を掴まれてそのまま引かれ。またサービスの腕の中へとダイブしていた。
どーやらサービス自身が俺を離したくないらしい。
抱き心地がいいらしいからだろうか。俺としては嬉しいが、その反面恥ずかしくもある。

「サービス、ここ高松の部屋だから・・・」
「だから?諸悪の根源は高松だから気にしないでいいだろう」

確かにそうなんだけど・・・。
俺としては人の部屋でこうして抱き締められているというのも少し居心地が悪い。というか何より恥ずかしい。
そんな俺の気持ちを察したのか気紛れなのか、サービスは俺の両肩に手を添えると密着していた身体を離し。そして俺の腰に手を廻すとそのまま俺を肩に担いでしまった。
突然の事に驚き、声も出せないで肩の上でジタバタすると。「大人しくしろ」と凛とした声で言われて俺はピタリと動きを止める。

「取り敢えず、ジャンは私が預かっておくから。高松、お前は元に戻す薬を作っておけよ」

俺を肩に担いだまま、高松にビシリと言葉を放つ。
言われた相手は「敵いませんねぇ」と肩を竦める。

そんな高松を尻目に、サービスとサービスに担がれた俺は高松の部屋を後にしたのであった。






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サービスの口調が定まらない私・・・。
サビジャン始動・・・・・・・?
そしてまた続きます。