乙女3

高松の部屋からサービスに担ぎ出され、何処へと向かうのかと思いながら大人しく運ばれた。
連れて行かれた先は、ちょっと身の危険を感じざるを得ない場所であった。


「やぁ、サービス。今日はどうしたんだい?」
「朝早くからすいません兄さん。ちょっと匿って欲しいんですけど」
「それは別に構わないけど。とりあえず中に入って、その肩に担がれている子の説明を頼むよ」

俺はサービスの肩の上に居ながら顔を見られないように俯かせる。

どーしてココに連れて来たんだ!
俺の貞操はここで失われてしまうのか!?と、俺は独り心の中で叫び声を上げていた。
が、サービスはそんな俺の心情に気づいているのかいないのか、あまり気にした風では無かった。

マジック様の私室は相変わらず無駄に広い。
サービスは、その広い部屋の真ん中に置かれているソファへと歩み寄る。俺は肩から下ろされ、ソファへと座らされる。サービスはそのまま俺の隣に座り、俺達の向かいにはマジック様が腰を下ろした。

「それで、そこの可愛い子はジャンだね?」

ソファに座ったと同時に口を開いて言われた言葉に俺は正直驚いた。

「良く解りましたね・・・」
「ハハハ、これも君への愛の賜物かな?」

マジック様は笑いながら言ってウインクを一つ。
サービスがそれを嗜めるように相手を見ているが、効果無し。
マジック様は一人で楽しそうだ。

「それで、原因は高松なんですけど」
「まあ、彼以外にこんな事が出来る人は居ないだろうね。それで、ジャンをどうしたいいのかな?」
「私は今日は仕事で出掛けないといけないので、その間兄さんにジャンを預けておきたいんです」
「えっ!?」

俺は驚きの声を上げる。サービスが出掛けるなんて聞いてない。
自分の意見も言ってないのに、目の前では勝手に話が進んで行く。

「それは構わないよ。寧ろ大歓迎な位だしね」
「外に出さないようにお願いします。ジャン、大人しく待ってるんだよ」
「ヤダっ!俺も一緒に行く!」

言うや否や、俺はサービスの腕にしがみ付いた。
考えるよりも先に言葉が零れていた。一緒に行くなんて無理なのは解っているのに。

「駄目だ、ここで大人しくしているんだ。仕事を終えたらすぐに戻って来るから」
「イヤだっ!」

まるで駄々をこねる子供のような言い回しだが、今はそんな事気にもしていられない。
いつもは従順な俺も、今日ばかりは譲る事は出来なかった。
マジック様はそんなやり取りをしている俺達を、まるで子供の喧嘩を見ているような眼差しで眺めている。

「ジャン、我が侭を言うんじゃない。すぐに戻ると言っているだろう」
「だからヤダって言ってるじゃんか!!」
「拉致があかない・・・」

眉間に皺を寄せてサービスが呟く。
俺は、迷惑だろうと知った事ではないとばかりに腕にしがみ付いたままだった。
すると、抱き付いていない方の腕が伸びてきて、俺はヒョイといとも簡単にお姫様抱っこをされてしまう。そのままサービスが立ち上がったものだから、落ちないようにあわてて相手の首へと腕を廻した。女になっている所為で、ずいぶんと体重も軽くなっているのか。重さも感じないというような素振りでマジック様の腰掛けているソファまで連れて行かれると、俺の身体はそのままマジック様の膝の上へと投げ出された。
俺は驚いて、しかし膝の上から逃れようと身を起こしたが、一足早くマジック様の逞しい腕の中に抱き竦められて身動きが取れなくなってしまった。

「マジック様!?離して下さい!」
「駄目だよジャン。サービスはすぐに戻って来るから、私と大人しく待っていようね」
「イヤですーっ!!」

じたばたと腕の中でもがいてみるものの、いつもの半分も力が出ていない。抱き込まれている身体は動かず、腕はビクともしない。
あまりの力の差に、悔しくて情けなくて涙が浮かんでくる。

「絶対に外に出るんじゃないぞ。すまない、すぐに戻るから」

頭の上に手を置かれて、優しく撫でられながら言われる。
俺は、口を開いてしまうと涙が零れてしまいそうで何も言うことが出来ない。
数度頭を撫でてから手は離れて行く、同時にサービスも踵を返し扉へと向かって歩き始めた。

「兄さん、後はお願いします。それと、ジャンに変な事をしたら許しませんよ」
「解っているよ、お前も早めに切り上げて帰って来なさい」
「勿論、そのつもりですよ」

サービスはそう言うと部屋を後にして行った。
俺はそれを見るのが嫌で、扉から顔を背けていた。

扉が閉まる音が聞こえる。

それだけで、淋しくて不安で、我慢していた涙がとうとう零れ落ちてしまう。
一度溢れ出してしまうと、後はもう次から次へと涙が零れ雫を作って零れていく。

情けない。

身体だけじゃなく、心までも弱くなってしまったように思う。
不安だから、今日位は傍に居て欲しかったのに。
そう思ってから、考え方までまるで恋をしている女の子そのものなのに気付き、益々情けなくなってしまった。

零れ落ちる涙を拭いもせずに泣き続けていると、暖かい大きな手が頬に触れ。優しく涙を拭われる。
そうされて、ようやく自分はマジック様の膝の上で泣いている事に気付く。

「す・・・すいませんっ!俺・・・」
「ああ、良いんだよ。泣きたい時は溜め込まずに泣いてしまえばいい。まったく、恋人を泣かせるなんていけない弟だ。跡でよく言っておくよ」

マジック様は優しく言って、俺を胸に抱き締める。

「サービスの代わりにはなれないだろうけど、今は私が傍に居るから。頼ってくれて良いんだよ」

こういう時に優しくされると、益々涙が止まらない。
俺がマジック様の胸におずおずと頭を預けると、嬉しそうに微笑んでから頭を撫でてくれた。
自分の身体がいつもよりも小さくなっている所為か、マジック様の手や身体が随分と大きく感じられる。

でもそれが居心地良くて。

俺はマジック様の胸に顔を埋めて、暫く涙を零し続けた。
マジック様は、そんな情けない姿の俺を、ずっと優しく抱き締めてくれていたのだった。







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痴話喧嘩サビジャン。
どんどんジャンが乙女に女々しくなっていくぅ・・・!
パパは余裕のある大人な感じなのが理想です。