初恋クレイジー

その日俺は、訓練中にムカついた事を言われた。
ムカついたからそいつを殴った。顔が変形する位にボコボコになるまで殴り倒した。
そしたらだ、その事がマジック兄貴にバレて俺は今謹慎処分中。
そしてこの俺が、そんな処分を素直に受け入れる訳が無い。





と、いうわけで。俺は今謹慎処分用の個室を抜け出して逃亡中。
今は平日の昼間。授業の真っ只中の時間である。俺が今うろついている寮は、皆別館にある教室やら、外の訓練用の施設などに行っている為、人っ子一人見当たらない。
この時間を利用して俺は人目を気にせずに歩く事が出来た。目的の場所は、俺の双子の弟の部屋。
合鍵とか、そんなものはない。しかし部屋に入りたければドアをぶち壊せばいいのである。多少でかい音がしたって大丈夫だろう、多分。
誰も居ない廊下を、随分と長い時間歩いていたように思う。俺はやっとサービスの部屋へと辿り着いた。

部屋の主は居ないだろうが、一応扉をぶち壊す前に人は居ないか確かめる。俺は扉をガンッと軽く蹴飛ばす。
そして扉に顔を近付け聞き耳をたててみる。
おかしい、中で微かだが何やら物音が聞こえる。
俺は開いていないだろうと思っていたドアノブへと手を掛ける。ノブを廻せば、ガチャリと金属音がし、手前に引けば、扉は音も立てずに静かに開いていくではないか。

「おいおい、幾ら何でも物騒なんじゃねーか?」

言いつつ、扉を壊さずに済んだ事を少々ラッキーに思った。
部屋の中は電気も付いておらず、薄暗い。しかし、微かに人の気配がするのだ。

そういえば、サービスの部屋は個室では無かった事を思い出す。
しかし今更後にも引けない、俺は部屋へ忍び込むと後ろ手で音を立てないように扉を閉めた。
電気が点いていないと言っても今は昼間だ。小さな窓からは木漏れ日が差している為、視界は悪いわけでは無い。
取りあえず、この部屋に居るであろう人物を見てやろうと俺は部屋の中へと脚を進めて行った。

広くも無い部屋だ、すぐに行き先は無くなり目の前に二段式のベッドが姿を現す。
気配はここからしているようだった。
その二段式のベッドの下の段には、カーテンが付けられ閉められていた。
きっとそこに、自分の弟か、果てはまったく知らない人物が寝ているのだろう。俺は意を決してカーテンへと手を伸ばす。
そして布を掴むと、一息置いてから。引き千切らんばかりの強さでカーテンを強く横へスライドさせた。

シャッ!と金具の音がしてカーテンは開かれた。
そしてベッドへ寝ていたのは、自分の知らない。漆黒の髪の男だった。

「チッ、サービスじゃねーのかよ。余計にめんどくせー事になっちまうな・・・」

俺は舌打ちをして頭を掻いた。
するとベッドで寝ていた男が小さく身動ぎをし「んん・・・」と、声を漏らす。
俺はカーテンを持ったまま身動きが取れなくなる。

男はそのまま布団の中でもぞもぞと動くとパタンと寝返りを打った。背を向けていた相手は、今度はこちらに顔を向ける格好になった。
具合が悪いので休んでいるのだろう。熱があるのか、寝ている男の頬はほんのり紅みを帯びている。
その相手の顔をマジマジと眺めてみる。

熱は高いのか、汗ばんだ額に前髪が少しくっついている。
隣に不法侵入者が居る事にも気づいていない。安らかな寝息、無防備な寝顔。

「こんな間抜けな奴がサービスと同室なのかよ。なんか・・・」

気に食わない。

サービスと同室だからか、この存在感抜群の俺が隣に居るのに気付かず。起きない(起きると困るのだが)からか。
自分でもよく解らなかったが。

男はそんな事を考え込んでいる俺の事なんてお構い無しに、昏々と眠り続けている。
もう一度、男の顔をじっと見つめてみる。

ここでは数少ない、漆黒の髪、顔はそこそこ良い男だと思う。目は閉じてしまっている為、多少の雰囲気は違うのだろうが。
そう思うと、この男の目の開いた顔が見たいと思ってしまう。
一度そう思ってしまうと、何故か凄く気になってしまう。
起こしてはマズイのだが、でもこの男の目の開いている顔が見たい。
でも起こすと面倒事が増えてしまう。
だがしかし。

考え始めると堂々巡りで終わりが見えない。
この考えを終わらせるには結論を出さなければいけない。
この男を、起こすか。起こさないかだ。

考え倦ねていると、男は汗ばんだ額を寝ながら手の甲で拭っていた。
拭い切れなかった汗が伝い、胸元へと一筋の線を引いていった。
たったそれだけなのに、俺の身体には変化が起こる。
身体が火照ったように熱い、相手は女ではないのに。どうして俺はこんな気持ちになっているのだろうか。

寝ている相手の湿って少し艶のある唇に、吸い寄せられてしまう。
ベッドへと脚を掛けると、仰向けに寝ている相手の上に跨り。馬乗りの状態になる。俺の体重を感じてベッドがギシリと軋んだ。
相手の眠りは深く、まったく気付く素振りは無い。
その事が、また俺の行動に拍車を掛ける。
相手の目を開けた顔が見たい、のと。キスをしたい。という行動の変化を起こしている事に。当の本人の俺はまったく気付かないままだった。

両手で相手の頬をそっと包むように手を添える。熱のある相手の頬は、予想よりも熱を持っていた。
起きないのを良い事に、そのまま顔を下ろして行く。
ゆっくり、ゆっくりと顔を近付け。そしてとうとう唇が重なってしまった。
ちゅっ、と軽く吸い上げると。それに反応して相手の口端から薄く吐息が漏れた。
その吐息一つで、一瞬理性がぶっ飛んだ。

そのまま唇と歯列を割るように自分の舌を差し込ませた。
そして、相手の舌を捕えると。口の中を蹂躙するように舌を蠢かせる。
何度も舌を絡め、吸い上げ、相手が息苦しさに口を開いたのを見計らうと。更に奥へと舌を差し入れて何度も舌を絡め取る。

こんな事をされれば、幾ら鈍い奴だって目を覚ますだろう。

「んっ・・・は・・・な、何・・・?んむっ」

自分のすぐ下から、相手の驚く声が聞こえた。
それと同時に俺は弾かれるように相手から離れ、ベッドから飛び退いた。

俺は今何をしていた?

熱の残る口元に手の甲を当て、さっきまで居たベッドを見遣ると。
目を潤ませ、顔を真っ赤にし、胸元が乱れた服を直す事もせずに俺の事をボーゼンとした表情で眺めている男の姿があった。


マズイ。これは非常にマズイ。

「今遭った事は忘れろ!いいなっ!!」

身勝手だなんて百も承知だ。
俺は勝手にそう言い放つと、俺の声にビビった相手を尻目にし。

弟の部屋を飛び出して行ったのであった。





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身勝手な獅子舞のお話。
これはハレジャンと言っていいものなのか・・・?
しかも続き物みたいになりました本当にゴメンナサイ。
タイトルはスピッツの曲からチョイスです。