過去と未来2

(えっと、どうしてこうなったんだっけ?)

南国の島から25年振りに帰って来た自分に宛がわれた研究室で、ジャンはコーヒーを飲んでいた。
それだけであればいつもの日常的な動作の一つなのだが、今日はいつもと違う光景がジャンの目の前にあったのだ。

「何だ、俺の顔に何か付いてるのか?」
「いや、別に何も・・・」

ジャンが座ったソファの前には資料が邪魔くさく詰まれたテーブルが有り、対面して向かいにあるソファにはキンタローが座って紅茶を飲んでいる。
慣れない光景に、ついキンタローを見てしまっては「何か付いているか?」と問い掛けられていた。

(つーか、問い掛けたいのは俺の方だっつの。俺の研究室なのに、何で俺が萎縮してしまってるんだか)

ずずず、と音を立ててコーヒーを一口啜ってからテーブルにカップを置くと。ジャンはじっとキンタローを見遣り口を開いた。

「あのさ」
「ん、何だ?」
「何でここに来たわけ?」
「・・・別に理由は無い」
「嘘吐け」
「どうして嘘だと思うんだ」
「顔に書いてある」
「・・・・・」

キンタローはジャンの言葉を真に受けたかのように、あまり感情が表に出ていない自分の顔に手を添えてしまっている。

(天然・・・だな)

ジャンは思って、ソファに深く座り込んで足を組んだ。
そんな相手の様子を、今度はキンタローがじっと見詰めている。

「俺の顔に何か付いてる?」
「別に何も付いていない」
「じゃあ、どうしたんだよ」
「似てるな、と思って」
「・・・シンタローに?」
「ああ、本当に良く似ている」

マジマジとジャンの顔を眺めて呟きを漏らす相手に、ジャンは気付かれないように小さく溜息を吐いた。

(俺の顔がシンタローと瓜二つだから、つい気になってここに来ちゃったんだな)

「まぁ、一緒のモノとして作られたから。似てるだろうな」

テーブルに置いたカップを手に取りコーヒーを飲もうと思ったが中身は先程飲み尽くしてしまっていたようだった。
ジャンはカップを持って立ち上がると、シンクに置こうかと相手に背を向けて部屋の奥へと行こうとした。
だがその足は進まずに止まってしまう。

「キンタロー・・・?」

ジャンは問い掛ける。
理由は、キンタローに背後から抱き締められてしまっていたからだった。
首にはキンタローの逞しい腕が絡められており、ぎゅっと、強く、しかし苦しくない程度に強く相手の腕に身体を拘束されてしまっている。

「お前とシンタローは同じなのか?」
「えー・・・っと、同じように作られてるってだけで、決して一緒って訳じゃないんだけど・・・。説明難しいな」
「でもそっくりだ」
「うん、でも、似てるのは見掛けだけだよ」

ジャンの言葉に、ジャンを抱く腕には力が篭る。
カップを割らないように近くのテーブルに置いてからキンタローの手に手を重ねる。
気が付けばジャンの肩にはキンタローの顔が埋められていた。

「俺はあいつと違って作り物って感じかな。老いる事もないしな、その点シンタローはちゃんと歳を重ねてるし」
「でも、こんなに温かいのに」
「リアルだろ?ちゃんと人に近く作ってあるからな、ちゃんと血だって赤いし温かいし」

「凄いだろ」と、冗談めかして言い。顔を振り返らせると、そこには間近にキンタローの顔があってジャンは一瞬言葉を失ってしまう。

「ジャンは、幾つで成長が止まってるんだ?」
「え、と・・・18歳かな」
「シンタローも、18の頃はこんな風だったのか」

ぎゅうっと、ジャンを抱く腕にまた力が篭った。
ジャンは自分を抱く相手の顔を見て思わず苦笑が零れる。

(仕方無いよな、シンタローの事好きなんだし。俺は性格は違うにしても、外見はそっくりだもんな)

腕の中で身体を反転させれば、相手と対面する形にして背に腕を廻し抱き付いた。
すると、手が今度は背に廻って、身体を抱き込まれてしまった。

「・・・シンタロー」

自分の身体を抱き込み、聞こえて来た切なげな声に胸が小さく痛む。
ジャンは顔を上げると、普段はあまり感情が出ないキンタローが辛そうに顔を歪ませているのに気付く。
その顔は今にも泣きだしてしまいそうで。

「泣くなよ・・・」

呟き、顔を寄せれば相手の唇に自分の唇をそっと重ねていった。






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キンジャンどえす。
キンちゃんはドが付く天然ですよね?(同意を求めるように)